Re: 『エロゲの違法コピーにまつわる話』が若干眉唾な件

世の中に蔓延するエロゲーの違法コピーについてまとめられたtogetterの記事と、それについてid:heatwave_p2p さんが書いていた「P2Pユーザの実数と発言中の数がかみ合わないよね」発言について、少し補足させていただきたく。

非正規ユーザ=違法ダウンロード?

元の発言で「違法DL」という言葉があり、その件数が150万件にも及んでいるようですが、150万人のユーザはみな「ダウンロード」ユーザなのでしょうか。
id:heatwave_p2p さんの言及の通り、主要P2Pユーザは20万人〜30万人程度と各種統計・調査から推計されるようでして、そのうち、いわゆるエロゲーの交換を行っているユーザはさらに限られてくるはずです。では、Winny / Share / Perfect Dark 以外の方法、たとえばBit TorrentやLimewireをもちいた交換を彼らはしているのでしょうか、これらの利用者は上記主要P2Pユーザよりさらに少ないですので、すくなくとも150万人の大部分を占めることはないでしょう。
そうすると、違法DLユーザの大半はどうやって当該ゲームを非正規に入手しているのでしょう?

ネットを通じて拡散したファイルは再流通する

某高校で教師をしている知り合いに聞いたところ、休み時間の教室で大量のDVD-Rメディアが手渡しされている現場が見受けられるそうです。没収したディスクの中身をみたところエロゲーやアニメ、あるいはDSのROM、PSPのディスクイメージなどで満たされていたとか。
もちろんこれは限られた一例であり広くこの事象が蔓延していることを証明するものではありませんが、少なくとも河原のエロ本を回し読みするような世代の行動を延長すれば、誰かがどこからともなく入手したエロゲーをDVDに書き込み多くの友人にばらまくことは想像に難くありません。

中高生がエロゲー、という悪循環

性的な興味が旺盛な中高生にとってエロゲーは恰好のコンテンツなので、もちろん急速に拡散します。しかも、エロゲーは18歳未満の購入やプレイが規制されている(18禁)わけですから購入は困難です。(ルールとしては販売店が18歳未満に売ってはいけない) 。しかも中高生の限られたお小遣いで買うのも大変、という事情もあります。
これらの理由により、中高生はエロゲーを買うことはできず、違法コピーは加速度的に蔓延します。

エロゲ業界にとって「150万」はやはり眉唾ではないか

以上のことから、違法に蔓延している数のうち相当数については、そもそも市場として組み入れてはいけない「中高生世代」である可能性が非常に高いと思われます。人口統計によると中高生はおよそ600万人いるそうです。うちエロゲユーザが100%男子だったとします (実際は女子も割といそうですが簡略化して) 。私が卒業した高校では、クラスの3人に1人はゲームのコピーを所持していたような状況でしたが、それより少なく見積もるとしてクラスの5人に1人が非正規所有者だとして60万人にのぼります。
大雑把な計算なので、実数とのブレはかなり大きいと思いますが、それでも決して少なくない人数がディスクメディアの受渡しによりゲームのコピーを入手していることになります。

この問題をどう捉えればいいか

中学・高校の教育現場で。校内での喫煙や飲酒は非常に厳しく取り締まられる傾向にありますが、コンテンツのカジュアルなコピーについて校内で指導が行われているという話をほとんど聞きません。厳に生徒から性的なコンテンツをすべて没収するべきかというとそうではないでしょうが、少なくともコピーメディアが流通していることに対しては厳しい対応をすべきでしょうし、教育の現場でもカジュアルコピーに対する指導を行っていくべきでしょう。
そもそも先生が副読本や問題集をカジュアルにコピーして生徒に配布している*1風景を見ますが、ああいうのを見ている生徒に違法コピーの抑止を訴えても効果はあがらないと思います。

エロゲー業界について。まず、150万人の大部分に「本来買えないはずの人」が多く含まれていますし、ゲームの画一化からエロゲー離れが起きていることも含め、現状の市場規模がそもそも縮小していることをまず念頭に置くべきです。これからすべきことは、お金を持っていてゲームを買うだけの財力のある人をいかにしてエロゲーの市場に引き込んでいくかを考えるべきです。
インターネットでストリーミング配信されているエロゲーを見たことありますか? iPadで動くエロゲー*2はどうでしょう? Blu-rayBD-Jを使えばもっとインタラクティブで高精細なゲームができそうですね。
もちろん現在の企業体力でこういった実験的なプロダクトを出すのには厳しいものがあるのは重々承知です。しかし市場の閉塞感を打開するとともに、エロゲーの文化を正しく社会に対してプレゼンスできないと、立場的にも危うくなるでしょう。「泣きゲー」と称されるような、ユーザーに感動と性欲をともに満たせるようなコンテンツをつくれる日本のエロゲーはもっと堂々と胸を張って市場を切り開けるはずです。がんばってください。

*1:著作権法上の例外規定として教育で必要な限度のコピーが可能であると定められてますが、著作権者の利益を侵害しないことを求めていますので、生徒に買わせる前提で出版された副読本をコピーし使わせることにより、出版社の利益を損ねることになるため法的にはNGです

*2:App Storeでは配布できませんが、Safariで動くものならつくれます。HTML5でメディア再生もフラグ管理も実装できるはずです