印鑑なしで銀行口座を開設する

ハンコ議連を勤める竹本IT政策担当大臣が「(はんこがテレワークで問題になるのは)しょせんは民・民の話」と答えたことが話題になったことを受け、私も一市民として印鑑から距離を置くことを考えてみます。

沢山の書類に判子を押す人のイラスト

印鑑をつかう主なシーン

個人で印鑑を使うのは、およそ次のようなシーンでしょう。

  • 銀行に印影を届出し、同一の印影をもって取引確認を行う
    (いわゆる銀行印)
  • 不動産や車輌、法人などの取得や譲渡を届出する
    (いわゆる実印)
  • 書面がスタイリッシュになるので ㊞と書かれてる場所に捺してみる

遺産分割協議書や賃貸借契約書は法的には「署名または押印」となっていて印鑑でなくとも問題ないのですが、やはり強そうな印鑑が捺してあると収まりがよいからか、ほとんどのケースで太い印鑑が捺されています。

さて、銀行における取引確認では一般的に印鑑が通用します。クレジットカードやスポーツクラブなどの口座振替のときに銀行に届出した印鑑を押印することで「口座所有者が代金の引き落としに承認している」と見做されるそうです。印影さえ手に入れば 3D プリンタで印鑑なんか作れてしまうご時世において、極めて物騒な運用がまかり通っています。

銀行と印鑑レス

銀行における印鑑レスには2つのアプローチがあります。

  1. 印鑑は銀行に届出するものの、印鑑でも印鑑以外の方法でも本人確認を許容する方式
  2. 印鑑を銀行に届出せず、印鑑を使わずに本人確認を実施する方式

例えば三井住友銀行は前者のアプローチを取っています。銀行の窓口に筆跡を認識するタブレットを用意し、本人が印鑑を持参せずとも本人確認が必要な業務を行えるようになっています。これは利便性が向上しているものの「印鑑という脆弱なシステムも引き続き許容する」という点で片手落ちです。クレジットカードの引き落とし先設定であれば、印影を用意すれば口座振替の設定ができることには変わりありません。

一方、印鑑を届出しない銀行では、そもそも印鑑がないので本人確認の方法には使われません。そうなると、クレジットカードの引き落とし先設定に使う口座振替依頼書はどうなるのでしょうか。(キャッシュカードの読み取りやWeb申込も普及していますが、紙での登録も存在します)答えは「適当な印鑑を捺しておけばOK」になります。ぐでたまのスタンプでも捺しておきましょう。

これを受け取った銀行は、印鑑では本人確認ができません。そこで口座所有者に対し「オンラインバンキングにログインし、口座振替依頼を本当にしたかどうかを確認して承認操作を行ってください」という連絡をプッシュ通知やメールで行います。つまり印鑑には本人確認能力がないものとし、別途オンラインバンキングの認証方式(パスワード、乱数表、セキュリティデバイスなど)で本人確認を実施するのです。

通帳レス、印鑑レス、カードレス、トークンレスで使える銀行口座はどこ?

印鑑レスを望む理由セキュリティレベルの向上だけでなく、単に貴重品を管理したくないという私の怠惰な気持ちからも来ています。そのため印鑑だけでなく通帳不発行、かつキャッシュカードやトークン(乱数生成器)も持ち歩かないで済む銀行を選びましょう。

以下の項目について調べていきましょう。

  • 通帳レス
  • 印鑑レス
  • 参照系APIの有無
    — Moneyforward など外部サービスとの接続におけるセキュリティの評価
  • pring 対応
    — キャッシュカードを持ち歩かず、セブン銀行のATMで入出金ができるサービス
  • セキュリティトークンの有無
    — オンラインバンキング利用のために専用のハードウェアや乱数表を持ち歩く必要があるかどうか

あわせて、他行宛振込手数料が無料になる条件も見てみます。

住信SBIネット銀行

オンライン専業の銀行で、住宅ローンの利率が低いことでも有名です。

  • ✓ 通帳レス (開業以来全員)
  • ✓ 印鑑レス (開業以来全員)
  • ✓ 参照系API
  • ✓ pring 対応
  • ✓ 専用アプリを用いた二段階認証

他行宛振込手数料を無料にするにはスマプロランクを上げて行く必要があります。貧民でも取りかかりやすいものでは

で月に3回無料になります。加えて

で月に7回になるのですが、これは「SPAT4」という地方競馬の投票サイトに月に1回 Web から入金し、馬券を買わずに出金するだけで達成することができます。手数料はかからず、慣れれば30秒ぐらいで完了します。

セキュリティ意識も高いです。専用アプリを用いた二段階認証では、専用アプリで認可時に振込先と金額を確認させる仕組みになっていて、MITM攻撃への対策という観点でも評価できます。Moneyforward や freee との接続もアクセストークンを用いているようで、生のパスワードを連携先に渡す必要がありません。

デメリットは口座振替への対応が弱く、また税金などの納付に使う Pay-easy に対応してないことです。

スルガ銀行

静岡の地方銀行ですが、ネット支店は全国区。シェアハウスでの杜撰な融資でゴタゴタしてましたが、日常使いには便利です。

  • ✓ 通帳レス (オンラインで開設した場合、または希望者)
  • ✓ 印鑑レス (オンラインで開設した場合)
  • × 参照系API
  • ✓ pring 対応
  • △ ご利用カード(乱数表) を用いたセキュリティ

他行宛振込手数料は通帳レスであれば20万円以上の残高があるだけで月に10回無料になります。

昔ながらの地銀でもあるので口座振替への対応は良好ですし、Pay-easyを用いた税金納付も問題ありません。ユニークなサービスとして、クレジットカードの引落の都度、ポイントをもらうことができます。ANA支店ではANAマイル、Tポイント支店ではTポイント、Dバンク支店dポイントクラブ応援バンクではdポイントがもらえます。また、引落の予定メールを事前に送ってくれるので残高に注意を払いやすいです。これも地味にありがたい。

デメリットはオンラインバンキングのシステムが古めかしいところでしょうか。参照系APIが不十分なのでMoneyforwardには生のパスワードを渡してスクレイピングしてもらうことになります。新しい振込先に送金するときにご利用カード(乱数表)が必要なところも面倒です。

楽天銀行

元はイーバンク銀行という名前のオンライン専業の銀行で、楽天が引き取りました。楽天の金融部門は消費者金融やリボで稼いでいる印象が強いですね。

  • ✓ 通帳レス (開業以来全員)
  • ✓ 印鑑レス (開業以来全員)
  • △ 参照系API
  • △ pring 対応 (月4回目以降手数料発生)
  • ✓ メールを使った二段階認証

他行宛振込手数料はハッピープログラムで対応してますが、月に(カウント対象となる)取引が20件でやっと3回といったところです。

  • 楽天証券への入金 (月3回まで)
  • クレジットカードなどの自動引落
  • 他行口座からの振込 (日1回まで)

ここでも公営競技の入金技が使えます。金額の下限こそない(100円でいい)のですが、上記と併せて月に20回も繰り返すのは至難の業です。全然おススメできません。そしてpringも無料で使える回数に制限が課せられています。

楽天銀行楽天カードの引落先に設定すると、当月の楽天市場のポイントが1%上乗せになるという特典があります。また楽天証券とのスイーブ口座が使えるのもメリットです。楽天銀行は「楽天経済圏」へのコミットメントが求められる口座と言えるでしょう。

りそな銀行

メガバンクも見てみましょう。

  • ✓ 通帳レス (オンラインで開設した場合、または希望者)
  • ✓ 印鑑レス (オンラインで開設した場合)
  • ✓ 参照系API
  • ✓ pring 対応
  • ✓ 専用アプリ、またはハードウェアトークンを用いたセキュリティ

メガバンクなので他行宛振込手数料無料とかには期待できないですが、pring が使えるので自分の口座間のやりとりはなんとかなるでしょう。

筆者の場合、都民共済の引落口座に設定できるのがメガバンクと都内の地銀しかなく、ネット銀行はおろかスルガ銀行を含めて全滅だったので、りそな銀行もつくることにしました。

その他の銀行

今回紹介しきれませんでしたが、ネットで口座を開設すると「印鑑レス」になっている銀行はほかにもあります。

いずれも上記のメリットを上回るよさがなかったので選外になってしまいましたが、興味があれば調べてみてください。

まとめ

ネット専業銀行や、オンラインで口座を開設した顧客に対しては通帳レス、印鑑レスが一般化していました。pring の力を借りればキャッシュカードもなくせます。

一方、こうした流れは窓口を持たないネット専業銀行が中心で、窓口で口座を開いた場合に後から印鑑レスを選択することはできませんし、ユーザが能動的に選択しない限り通帳の廃止もできません。

銀行ひとつとってみても「はじめから印鑑がない世界」を選ぶことはできるようになってきている一方、「すでにある印鑑を廃止する」ことは想定されていないようです。

新しい仕事や組織において印鑑レスを選ぶことは重要ですが、従来印鑑を使っていた場面に印鑑に代わる新しい認証方法を導入することは「気持ち的」に難しいのかもしれません。