携帯電話の「定期的に機種変更するユーザを優遇」する施策は悪ではない

安倍首相の鶴の一声でにわかに騒がしくなってきた「携帯電話の料金引き下げ」の話題。

記事によると「定期的に機種変更・MNPするユーザと、同じキャリア・端末で使い続けるユーザの間の不公平感の解消」「MVNOの利活用」などで月額の負担額をおさえようという論調で議論が進んでいるようだ。

なお、私は大手通信キャリアと資本関係がある会社に籍を置くものであるが、この記事は所属する団体を代表する意見ではなく、あくまで一個人として考えている内容であることを予めお断りする。

TL;DR

私の言いたいことをさきにまとめておくと以下の通りになる。

  • スマートフォンのように進化が著しく、高度な保守が必要となる通信機器は、一定の買い換えを促した方が全体的なメリットが大きい
  • 利用者の負担額の軽減には安価な機種の導入を進めるべき
  • 機器の更新や保守をまとめて引き受ける代わりに高額な通信キャリアと、それらのサービスが不要な代わりに低額な通信キャリアという線引きを明確にすべき

以下、これらの内容について説明していく。

スマートフォンのスペックは底上げする必要がある

スマートフォンは車やテレビなどと異なり、短期間でスペックがグンと上がる。

f:id:shao1555:20151020114501p:plain iPhone 6s - Technology - Apple

iPhone 6s は1年で7割も性能が上がる。4年前の端末と比較すると5倍、 6年前と比較すると15倍にも相当する。また、通信速度は (日本での) 初代 iPhone が 3.6Mbps だったのに対し、今は 300Mbps と 83倍にもなっている。

その高いスペックは、ハイエンドなゲームのためだけに存在するわけではない。

限られた電波帯域をうまく使うために効率の良い通信方法を利用したり、また効率がよい圧縮方式を用いて動画や写真の転送量 (=パケット料) を節約したりするためには、高いスペックの端末が必要となる。

また、悪意をもった人は脆弱なマシンを狙う。古いソフトウェアや暗号化方式を用いた端末は残念ながら、恰好の餌食となってしまう。利用者により適切にアップデートやパッチの適用ができればいいが、あらゆるソフトウェアやサービスとの互換性を考えながら適切にアップデートを施せるユーザはどれだけいるのだろうか。

インターネットや無線区間をみんなで共有している以上、旧世代の端末やソフトウェアが多く利用されることは、全体的な効率を下げることにつながる。高速道路に原付や1960年代の小型車が多く流入したら渋滞が頻発することは容易に想像できるだろう。

Vietnam by M M, on Flickr

ユーザによる端末の買い換えを促す仕組みはやはり重要だ。

機種変更の負担を下げるには

機種変更を促すためには、費用と手間の2つの問題をクリアしなくてはいけない。

日本の大手通信キャリアでは高額な端末を、利用者の通信料金を原資に割り引きするという制度を主にとりつつけてきた。短期解約で損をしないよう端末の本体価格を思いっきり引き上げ、長期利用時にはその負担が軽減されるような仕組みでユーザを拘束している。

smhn.info

これに対し、MVNOでは中国製の安価な端末を中心に揃えている。これらは「型落ち」ではなく、「部材のコストなどを下げた格安機」であり、最新の OS が動き、効率の良い通信方式が使えるようになっている。(例外もあるが)

f:id:shao1555:20151020125747p:plain 機種一覧|FREETEL(フリーテル)

大手通信キャリアは型落ち機を特売の目玉にするのではなく、このような「格安機」を取扱うことでユーザの負担を抑えるべきだと思う。

もうひとつが手間の問題。機種変更のために混雑した携帯電話屋に向かい、契約から移行作業まで一通り終わると1日潰れる。この負担だ。

これに関して、体力のある大手キャリアはレンタル制度を導入すべきではないだろうか。Android 6.0 から設定情報をクラウドにバックアップできるようになるなど、データの移行を簡便にする技術的要素は整いはじめてきた。端末が2年ごとに自宅に届き、あたらしい端末の電源をつけるだけですぐに使えるようにするなど、機種変更の方法を圧倒的に簡単にする必要がある。(Kindleはアカウント設定済みの状態で届いて直ちに読書ができる。こうなってほしい)

大手キャリアは高額、MVNOは格安?

大手キャリアはハイエンド機種をショップで販売し、高額な基本料金で快適な通信ができる。一方のMVNOは格安機種をインターネットで販売し、安い代わりに混雑時はパフォーマンスが低下する。これが現状の大手キャリアとMVNOの選択だ。しかし「ユーザサポート」を念頭におくと、以下の様な選択肢を用意すべきではないのだろうか。

  1. サポートは自己責任の代わりに、機種や通信品質、オプションサービスを自由に組み合わせられる (玄人向け)
  2. 現行の大手キャリア並のサポートで、買う機種によって基本料金が変動する (大衆向け)
  3. 端末のレンタル制、クラウドによる一括管理などでユーザの手間を極限まで下げる代わりに、サポート費用をそれなりにとる (デジタルデバイド対策)

iPhoneを毎年買い換えるようなヘビーユーザー、あるいは難解な料金プランをパズルのように組み合わせて維持計画をきちんとひけるような人には今のMVNOのようなスタイルの延長が適正だと思う。

そこまではいかないがスマホのことはある程度わかり、定期的に機種変更ができるような人に対しては機種に応じた料金をユーザに負担させる。安い機種を選択すると月に数千円下がるぐらいが理想ではなかろうか。

もっとも消極的なユーザ層に対しては端末を定期的に発送する、アプリのインストールをキャリアが管理するなど、サポートを手厚くする代わりに一定の対価をとる (或いは他のスペックを下げて釣り合わせる) 必要があるだろう。

まとめ

通信環境の底上げは国のICT戦略上も重要なもので、「古い機種を使い続ければ得」な制度を設計すると、ITの成長は鈍化してしまうと思う。技術の新陳代謝を維持するとともに、ユーザが必要とするサポートレベルが多様化しているという点をふまえ、丁寧な提言をまとめてほしいと切に願っている。