iPhoneが日本で発売されない理由 -閉鎖的携帯電話市場「日本」とGSM を読んで

はてブのhotentryに挙がっていたページだが、読んでみたらとても言いたいことだらけになってしまったので、言及させていただく。

以下、引用箇所は当該「iPhoneが日本で発売されない理由 -閉鎖的携帯電話市場「日本」とGSM」記事からとなる。

日本でGSMが普及しなかった理由は、端的に言えば総務省の指導があったからだ。

総務省の指導があったというよりは「日本独自の事情」を満たした規格を携帯電話に採用しなくてはいけないというのが本当の事情。GSM圏に比べて日本では

  • 都市部を中心に世界的に類を見ない、基地局あたりの待ち受け/通信中端末の数の多さ*1
  • とりわけ駅や電車の中では携帯電話がよく使われ、端末の密度が著しく高くなる
  • 欧米に比べ電車の高速移動中に使われることが多く、ハンドオーバーをスムーズにこなさなくてはならない。

たとえば半径500mをカバーする基地局ターミナル駅にあるとしたときに、そこにラッシュの通勤電車が4編成ぐらい到着したとする。少なく見積もっても5000台以上の端末が一斉に圏内になるのだ。
このような事態でもPDCのシステムは問題なく端末の位置登録を行えるようになっている。
GSMに比べて効率の高い電波利用ができるということが、採用のいちばん大きな理由である。

欧州ではヨーロッパの電話会社が多額の負債を抱えており、第三世代方式への十分な投資ができない状態が続いているため、GSMの技術を改良し既存の設備を利用して高速な通信が行えるGPRSやEDGEといったシステムを利用している。

欧州のキャリアが負債を増やしてまで第三世代方式に投資することはない、と判断したからであろう。そもそも欧州での携帯事業は音声通話やSMSが主流で、パケット通信によるコンテンツやeメールサービスの利用者が広まらないよう現状では第三世代方式を求めるユーザの声もほとんどなかったであろう。だから欧州キャリアはGPRSやEDGEなどのシステム改修による2.5世代方式で当面を乗り切るという道を選ぶほかなかったのである。

欧米で売っているBlackberryNokia端末、Treo等は軒並み日本では発売されず、2005年に発表されたW-ZERO3が初めての「スマートフォン」だった。現在、au以外の各社がスマートフォンを発売しているが、その中でもまじめに取り組んでいるのはWillcomSoftbank だ。

日本人のコンセンサスとして「携帯電話は片手で入力するもの」というものがあるのではないだろうか。携帯を使うシチュエーションが電車の吊革につかまりながらだったり、鞄を片手に持ちながらだったりするような日本において、片手で入力できないQWERTYキーボードを持つ携帯は決して「スマート」ではないと考えられているから受け入れられない*2のではないだろうか。

Appleはこの端末の製造に数年間を費やしたという。それに引き替え、日本の携帯電話の発売サイクルは半年程度だ。最近話題の戸田絢子氏(auのデザイン担当者)も、

メーカーは、携帯のビジネスモデルの何たるかを全く分かっていないんです。
家電+ネットの、検索+比較(価格.COM)モデルで考えられると困るんですよね。
メーカーが勝手な競争を始めないよう、常に私たちの指導が必要なんです。
  …
団塊の世代などと異なり、たまごっち世代・ゆとり世代はカタログ仕様や契約書の
理解・比較力が低いのが救いです。彼らには、感覚的な満足度のみが重要なので
自らが選択・決定している気分を常に与え、不満を具体化させない演出が必要です。

と、「高度な機能を詰め込んだ携帯電話を出すと自分たちが携帯を売れなくなるからやめてほしい」的発言をしている。

戸田氏の発言の真意についてはわかりかねるため、以下は推測の域であることを先に断っておくが、私はこのような意味であるととらえている。

  • 日本における携帯のビジネスモデルは着うたフルやアプリなどのコンテンツサービスをはじめとした、通話メール以外の利用をユーザに対して促進することにより一人あたり収益を上げている。
  • 実際には通話やメールしかつかわないようなユーザが決して少数ではないため、需要に基づく端末開発をメーカーが行えば、(独身向け白物家電のような)とてもシンプルで低コスト、端末ライフサイクルも長い携帯電話が出ることが予想され、シンプル低価格*3路線での「勝手な競争」がはじまってしまうであろう。
  • そこでキャリアは端末に最低限盛り込むべき機能をメーカーに指導するなどして、端末の機能が一定以下にならないようにしている。

こうであるとすれば、thir氏の解釈とは正反対に「機能を削った携帯電話を出すと自分たちのコンテンツや付加サービスの売り上げが落ち込むからやめてほしい」という解釈をすればいいと思うのだがどうだろう。

これを見ると、やはり日本の携帯というのは成熟を目指していないというか、先進的な機能を何も搭載せず、ただ単に「ブラウザ」「メール」「電話」「JAVA」「ワンセグ」などと、いくつかある機能の中からコンビネーションを選んで搭載しているだけで、何もおもしろみがない。

これらの機能が先進的な機能ではない、ということを言いたいのだろうか。是非これに勝る欧米携帯の「先進的な機能」を具体的におしえてほしい*4。少なくとも日本では、iPhoneが出るよりはるか前から数百万画素のデジカメやフルブラウザなどを搭載している携帯電話ばかりではないか。

一度、ユーザーの視点に立ち返った商品開発をする気はないのだろうか?なぜメーカー同士に勝手な競争をさせ、「次々とよい製品が生まれていく」状態にならないのだろうか。日本の携帯電話市場は何かおかしい。

ユーザの視点が電話やSMS(auではCメール)に機能を絞り込むというところにあるならば、日本の携帯はユーザのニーズにそぐわない製品をつくっている、ということになるであろう。しかしユーザの視点が携帯の多種多様な進化に向けられているのであれば、現状の日本の携帯市場は「次々とよい製品が生まれている」状態ではないだろうか。

日本と韓国の携帯各社は、CHTMLブラウザやマルチメディアメール、アプリをはじめとしたコンテンツサービスを強く推し進めてきたために、利用者はパーソナルな通信メディアとして携帯電話を使うようになった。それに対し欧米各社の携帯通信サービスはあくまでビジネスソリューションとしての展開に頼っているようである。パーソナルエンタテインメント端末としての利用の道を、見えない壁で閉ざしてしまっている欧米各社の携帯電話のほうがよほど閉鎖的ではないだろうか。
そういう意味でもiPhoneが欧米に普及することにより、遅ればせながらも携帯網のパーソナルエンタテインメント分野での需要が喚起され、日本のような高機能端末や3G網の普及につながるのではないかという期待を持ち続けたいものである。

*1:もちろんサービス開始時のトラフィックを言っているわけではない。将来を見越しての規格検討時に国民の大半が持つことを想定したわけだ

*2:もちろん反論は多くあるだろう。W-ZERO3esのようにテンキーとQWERTYの両方を搭載している端末もあるだろう。しかし殆どのユーザは片手での入力がしやすい(軽くて予測入力の充実した)携帯電話を求めているはずだ

*3:「現状のローレンジ端末では0円が当たり前なのにこれ以上どう低価格にするのか」というツッコミがありそうだが、ここでは生産コストの低下によりインセンティブに頼らなくても健全な端末利益を計上できるレベルでの低価格という意味ととらえて頂きたい

*4:海外の携帯は留守電機能やSMSについては日本よりも多彩な機能を積んでいる。そういう意味では日本の携帯は通話機能に関しては遅れていると言わざるを得ない。ただ電話機能に対するニーズがそこまで重要視されるとは思えない。