マッハ新書のつくりかた

さる 4月25日、VRエンスーで著名なGOROmanさんが「全ての出版社は多分潰れる」という電子書籍を出した。この本は、同氏が飛行機の欧州航路で移動中の12時間で書き上げた「即席の書籍」である。

あたかもGOROmanさんが目の前で即席のプレゼンをしてくれているような感覚に陥った。本なんだけど圧倒的なライブ感。その面白さに惹かれ、その夜には自分も筆をとっていた。

外が明るくなる頃には書き上がったので、すぐに BOOTH に陳列した。自分の思うところを荒々しく書き綴った、決して完成されてない書籍が世の中に出た。

ニコ技深圳コミュニティでお世話になっている伊藤亜聖さんがGOROmanさんと私のムーブメントに乗り、後に続いた。「大学の先生がスマホで書いた本」という、これまでにないスタイル。私は Pages での組版と校正を数時間ほど手伝い、98ページもの書籍が世に出た。

わずか4日間で3冊の本が出た。これを「マッハ新書」と名付けることにした。

ちなみに3冊目の「加速都市深圳」の出版を手伝わせて頂いた。

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コミュニティ時代の本

マッハ新書は、単に高速で出版されることが特徴ではない。TwitterFacebookなどのSNSを通じて本のリリースが拡散するとともに、感想から誤字脱字に至るまで、さまざまなフィードバックも即座に伝わる。それらの声をもとに加筆訂正が行われ、その日の間に次の版がリリースされ、またダウンロードできるようになる。
そして前述のように、マッハ新書に感銘を受けた人が、新たなマッハ新書を生み出す。
さながら本を通じて「生きたコミュニティ」があらわれるのだ。

マッハ新書を支える Pages と iPad

GOROmanさんの「全ての出版社は多分潰れる」は iPad の Pages で書かれている。それに倣い、私の「シンギュラリティが終わる日」と伊藤亜聖さんの「加速都市深圳」もPagesで作っている。このアプリを使うとマッハ新書を素早く出すことができるのだ。

まず Pages は Word と同じくワードプロセッサなので、強調やルビなど、書籍の体裁に必要な装飾、そして見出しレベルや本文などの構造化された文章と、それに応じたスタイルの設定ができる。
また、iPad では注釈をペンでいれる機能があり、伊藤さんの本では私がスタイリングしている間に伊藤さんが校正を素早く進めることができた。

Pages でつくるコツをいくつか書いておく

1. 新規作成時に「ブック - 縦 > 空白ブック」を選んでおく

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2. 書類設定で「A4」にする。ヘッダ・フッタも入れられる

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3. 見栄えは気にしなくていいが、「段落スタイル」はちゃんと設定する (見出し、中見出し、本文など)

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4. スマホで読むことを前提に、文字はおおきくしておく。本文は 18pt とかあってよい (プリントアウトしてもらう場合は、2面付けにしてもらう)

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見栄えの設定が面倒な人向けに、Pages のテンプレートを置いておく。

マッハ新書 テンプレート.pages (539KB)

作成が終わったら、EPUB 形式で書き出しをする。リフロー型のほうがユーザのデバイスにフィットするが、複数のデバイスで改行位置がいい塩梅かを確認する作業が発生して面倒なので、固定レイアウトにしてしまおう。大丈夫、18pt の文字サイズなのでスマホで問題なく読めるし、PCで読む場合は見開き表示でいい感じになる。

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あとは BOOTH に #マッハ新書 というタグをつけて出品し、TwitterFacebook で告知するだけだ。

 

まとめ

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第8回 ニコ技深圳観察会 (2018/03) 参加レポート : Shenzhen Speed の正体を探る旅

2018年3月19日〜21日にかけ、スイッチサイエンスの高須さんが主宰する「第8回 ニコ技深圳観察会」に参加してきた。2016年、2017年に続き3回目の参加となった。

今回の観察会は事前にブログを提出しての選考が行われた。また、観察会を終えた後に、その感想をブログなどでシェアすることがルールとなっている。

Shenzhen Speed とは

深圳でのプロダクト開発は極めて速い。ハードウェアスタートアップ向けのアクセラレータプログラムの HAX は 短期間でプロダクトアウトを目指し (以前は111日間といっていたが、今は4〜6ヶ月と言われている。それでもハードウェア開発としては極めて速いと言える)、彼らが深圳のことを紹介するときには "深圳の1週間はシリコンバレーの1ヶ月に相当する" とよく語っている。こうした俊敏なプロセスは「Shenzhen Speed」と呼ばれ、世界から注目を集めている。

ソフト・ハード両面のスーパーエンジニアリングで加速する Insta360

360° カメラを手がける Insta360 (Shenzhen Arashi Vision Inc) は、立ち上がってまだ3年ほどの企業であるが、nano, Air, One, Pro, nano S と 5 機種を立て続けに出している。光学系の設計が必要であり、かつスマートフォンとの緻密なインテグレーションが必要である複雑な機器をこの速度で開発できることに驚くが、彼らの強みはソフトウェア・ハードウェア双方にわたる改善のスピードであると思う。

(スマートフォンからはこのリンクよりYouTube アプリで再生されたし)

上の映像は、つい先日 (3月20日) にリリースされたファームウェアアップデートを適用した Insta360 One で撮影したものだ。いわゆる「自撮り棒」を持って歩いただけだが、まるでジンバルを持っているかのように安定した映像になっている。

彼らが目指す市場は 360° カメラだけでなく、カメラそのものだと語っている。すなわち 360° カメラの技術を用いてジンバルや自由視点撮影などができる「最高のカメラ」をつくろうとしている。さらにライトフィールドカメラのような新たな技術への研究開発にも余念がない。

Insta360 の展開が何故速いかについて、同社の Bianca さんに聞いたところ、

  • VR など 360° 市場の立ち上がりにうまく乗り、資金を大きく集められたこと
  • 採用をがんばり、よいチームがつくれたこと
  • 何はともあれ、チームのみんなが仕事をがんばっていること

が速さの秘訣だと答えた。決して突飛な打ち手ではなく、どれも事業における基本ではあるが、それらを丁寧かつハイレベルに行えているからこそ、この速度が実現できているのであろう。

山寨を組み合わせてロボットをつくってしまう CityEasy

山寨(shanzai)とは山の要塞、そこから転じて「ゲリラ的に開発された模造品・二級品」の意味で、iPhone や GoPro などの偽物や、Amazon でよく見かける、聞いたことのないブランドの USB ケーブルやモバイルバッテリーなどの粗雑な商品を指す。

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CityEasy は Apple Watch っぽいスマートウォッチ (Apple Watch と誤解させることを目的にしているなら海賊版だが、彼らの場合はデザインなどが全然違うので、そういう意図ではなく、深圳で出回っている基板で作った二級品だろう) などを手がけていたが、最近は施設案内や娯楽・教育のためのロボットなどをつくっている。よくみるとロボット掃除機や Android タブレットなどに由来してそうな構造が見て取れる。こうした「世の中に既に出回っているモジュール」を組み合わせ、俊敏な開発体制を構築することができている。

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このロボットは子供向けにコミュニケーション (音楽や童話の読み上げなど) をしてくれるものだが

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なんと、中にはスマートウォッチが入っている。スマートウォッチ + スタンドをロボットに見立てたというものだ。

この会社のロボットは金融機関や施設の案内など、to B 案件での引き合いが多いとのこと。実際に深圳空港のラウンジでは稼働しているロボットを目撃することもできた。(Android ベースのもので CityEasy 社で見たものと似ているが、製造元がどこであるかは確認できなかった) こうした社会のニーズに既存のテクノロジの掛け合わせで速やかに応えていくスタイルは非常に印象的だった。

Shenzhen Speed を生み出す都市空間

深圳市软件产业基地 (Shenzhen Software Industrial Base) は WeChat / QQ で有名な腾讯 (Tencent) の本社と百度国际大厦 (Baidu International Building) に挟まれたエリアで、数多くのITスタートアップのオフィスが集積している。

このエリアではインキュベーターベンチャーキャピタル、メイカースペース、法律・会計・特許事務所、銀行、英会話教室、そしてイベントスペースや電源完備の喫茶店に至るまで、スタートアップが必要とするものを集積させている。

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深圳のITスタートアップの働き方は「996現象」と言われており、これは「朝9時から夜9時まで、週6で働く」実態を意味している。目の前には、豊富なキャッシュを有するネット企業の Tencent と Baidu があり、スタートアップの一挙手一投足は彼らの目に留まる。このエリアにあるリソースと気力をフルに投入して EXIT まで一直線で駆け抜けようとするベンチャーが集まっているのだろう。

また、食環境のよさもスタートアップを加速させることの一助になっている。

深圳では朝食から夕食、深夜まで「どこかの店が営業している」ようになっていて、どの時間帯であっても温かい料理にありつけるようになっている。ファミレスかマクドナルドぐらいでしか朝食を食べられない日本とは対照的だ。

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そして予約なしにパーティーができるくらい店が広い。観察会の1日目に行われたミートアップでは白石洲に70人ほどのメイカーが集まり、各自の活動を紹介しながら思い思いに歓談が行われた。「大人数であっても気軽に同じ釜の飯を囲める」飲食店の発展は、コミュニティを活性化することに大いに役立つし、仕事で疲弊したチームの心身を癒やして英気を養うのにも最適だろう。GoogleFacebook がコックを雇い社内にレストランを設けてエンジニアを鼓舞しているが、これと同じことを深圳では街全体で担っている。

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全力で踊り続けたら Shenzhen Speed になる

曲がりなりにも複数社の立ち上げから EXIT までを経験し、今もいくつかのITスタートアップを支援している自分にとって、スタートアップがぶちあたる大きな壁は「熱量の高い人を集めることがすごくむずかしい」ことだ。最初の数人であればまだしも、会社の規模が大きくなるにつれて、どうしても事業やプロダクトへの熱意がそこそこの人を雇わざるを得なくなってしまうのが常だ。しかし深圳で「うまくいっている」チームは、見ただけでチームの熱量が極めて高いことがすぐわかる。

この疑問は高須さんが最終日に行ったプレゼン「僕たちが起こせるマジック」で解くことができた。

深圳をリードするスタートアップのチームには「やりたいこと」が先にあり、とにかくやりたいことを全力でやることで、それに共感した人が集まってくるという仕掛けがあることに気づかされた。そのことを高須さんは「自分たちのためのイノベーション」と語っている。また同セッションで TED の "How to Start a Movement" の一節をとりあげ「裸で踊っているのがイノベーター、そこに二人目が参加することが大事」と言っている。深圳はまさに「裸で踊っているイノベーター」が大事にされていて、そこに集う人が全力で踊り続けるからこそ、他に類を見ないスピードでイノベーションが起こり続けるのだと思った。

やりたいことで生きる時代がやってくる

これまでの社会では生きるためにお金や知識 (言語や数学、働くための専門知識) が必要であり、そのために人は学び、組織化し、働いてきた。しかしインターネットとコンピューティングの進化により、お金を得るために組織を構築する必要は薄れ、言語や数学もコンピュータの手助けを得られるようになってきた (僕は中国語が喋れないが、画像検索で店員に意思を伝えてコミュニケーションをとったりしている)。 やがて人間の労苦を AI が取って代わるようになり、ベーシックインカムが実現する日がやってくるだろう。

つまり、「生きるため」の仕事が減っていき、「やりたいこと」で生きていく人が増えていくのではないかと思っている。既に YouTube が「好きなことで生きていく」というキャッチコピーを掲げていて、現にそういう生き方をしている人も出始めた。また「やりたいことをやっていたら、それが仕事になっている」という人もすでにいるだろう。「やりたいこと」ドリブンでイノベーションが進んでいる深圳は、まさに未来を先取りしていると言えるのではないだろうか。

自分がやりたいこと: 便利なサービスをみんなが使う姿をみたい

自分はインターネットで便利なサービスを作ったり使うことが好きで、そのことを人に伝えて、みんなが便利さを実感できるようになることが大好きだ。中国には便利な Web サービスがたくさんあって社会に浸透しているのがとても羨ましい。日本でも便利なサービスがガンガン生まれて、みんなが楽しくサービスを使ってほしい。そんな気持ちから、中国ネットサービスのイノベーションを紹介するプレゼンを観察会でやらせてもらった。

中国のサービスをそのまま日本に持ってくればいいと思っているわけではないが、中国ネットサービスの膨大な成功と失敗から学んだ上で、日本でも便利でみんなが使えるサービスが数多く生まれるようにしたい。とりわけ「高齢者でも使えるネットサービス」は中国でも未解決な問題であり、そこに先陣を切り「おじいちゃん・おばあちゃんが夢中になれるサービス」が日本で数多く生まれるようになれば最高だ。

そんなことを考えるきっかけとなり、強い刺激を受けた観察会であった。

第8回 ニコ技深圳観察会 (Shenzhen High Tour) 参加に向けて

Makerイベント大好きおじさんこと、高須さんが立ち上げたニコ技深圳観察会の季節がやってくる。

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深圳という世界で最もエキサイティング (だと思っている) 街を知るきっかけとなったのは 2016年4月に開催された同イベントの第4回に参加したこと。それから毎月のように海外に出かけ様々な街をみてきたが、ニコ技深圳観察会は参加者の熱量の高さとアウトプットの高さで期待値がずば抜けて高く、特別なものと言えよう。

今回の観察会に是非エントリさせていただきたい。

あなた誰?

shao こと、澤田翔。大学在学中からエンジニアとしてITベンチャーの立ち上げを何度か経験し、現在はフリーランスとして、立ち上げ期のITベンチャーへのエンジニアサービスとITアドバイザリーを提供している。最近では IoT や仮想通貨、AI などの領域での仕事を多くいただいている。

 

また、モバイル通信や決済サービスが好きで (関連の仕事もしている) 、中国の SIM 事情や WeChat Pay (微信支付) について、それなりに知識がある。

 仮想通貨やブロックチェーンについても、投機的な側面ではなく「社会に取り入れるとどういう問題解決ができるか」といった研究を主にしている。

ハードウェア製造現場としての深圳
- "ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ" を読んで

今回の観察会でも工場をはじめ、ハードウェアの製造現場を多く見学させていただくことになるであろう。その中でも、観察会では毎回訪れているジェネシスの藤岡さんとは、仕事の相談をはじめ、公私にわたりお世話になっている。その藤岡さんによる著書で、深圳におけるハードウェアのエコシステムについて彼の目線からわかりやすくかかれている。

もともとソフトウェアエンジニア (Webエンジニア) で、ハードウェアの量産経験などまったくない筆者であったが、ITが果たす役割が実社会に大きく関わっている現在において、ハードウェアを迅速かつ安価に調達できることは非常に魅力的である。この本には、深圳におけるハードウェアのエコシステムをいかにジェネシスが取り入れているかが書かれており、すなわち、自らの事業にハードウェアを取り入れる上で、深圳のエコシステムをどう武器にしていけばよいか、本書を通じて知ることができた。

生き延びるために変化をし続ける深圳のハードウェアのエコシステムは、訪問するたびに新たな側面をみせてくれる。今回の観察会でも深圳人が生み出す新たなムーブメントを見つけていきたい。

イカームーブメントからメイカースキルへの変化
- "メイカーズのエコシステム" を読んで

自分がニコ技深圳観察会を知るきっかけとなったのがメイカーズのエコシステムという高須さんの本だったので、もう2年前ぐらいになるのであろう。

今では Google Home や Alexa と家電を連動させるために Raspberry PiArduino を組み立て、その知見が Qiita や GitHub で共有されるようになり、任天堂は段ボール工作キットの Nintendo Labo を発表するなど、「ハードウェアを工作して生活を豊かにする」という、メイカー的な活動が徐々に世の中に浸透しはじめたように思える。

しかし、そのきっかけは「誰かをメイカーにしていく」という草の根的なムーブメントが大きな役割を占めていることはいうまでもない。若く野心ある人々が集まる深圳はそのムーブメントの中心地のひとつであることはいうまでもない。さらにいうならば、深圳という街が高速なイテレーションで変化しつづけており、人のみならず街レベルでメイカーの血を引き継いでいると感じる。サブタイトルの「新しいモノづくりがとまらない。」という名のとおり、深圳全体がメイカーを育て、街のアップデートの原動力となっている。

熱量の高い人が集まるからおもしろい

今回いくことができれば3回目の観察会となる。観察会以外にも何度も訪れているので、華強北の電気街や JENESIS さんへは両手で数え切れなくなるぐらい訪問している。それでもニコ技深圳観察会は特別だ。それは高須さんの手作りのツアーに共感し、決して容易ではない参加のハードルを越えてきた、熱量の高い人が集うからに他ならない。そしてメンバーの熱量の高さが、訪問先の方々を強く揺さぶり、数々の奇跡を起こしてきた。アウトプットの事例の一部ではあるが、高須さんの記事に、観察会をきっかけとした活動がまとまっている。

 

人類史上最速のイノベーション都市である深圳を全力で見に行くツアーに大きな期待をしている。今年も手を上げさせていただきたい。

【2018年版】 中国滞在時に Twitter, LINE, Instagram ができるプリペイドSIM/スマホの準備

この記事は古いです。最新の状況は以下のエントリを参照してください。

謹賀新年、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

昨年末に子が生まれ、なかなか深圳に行けてない筆者であるが、復習を兼ねて中国大陸の通信事情を最新事情にアップデートしておく。

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目次

  • はじめに
  • SIM フリー / SIM ロックを解除できる電話を持っている
  • SIM ロックがかかったスマホしかない
  • 上級者向け
    • 中国の周波数帯への最適化は必要?
    • 中国大陸の SIM なら中国联通の日祖卡を現地で契約
    • GlocalMe などの eSIM WiFi ルータはどうか
    • シンガポール StarHub Happy Roam、タイ True TRAVEL SIM ASIA も要注目
    • 香港空港での中国移動香港プリペイドSIM現地調達について

まとめ

SIMロックを解除し、 Amazon.co.jp で買った中国聯通香港の中国聯通香港のプリペイド SIMを挿す。iPhone 6s 以降に発売されたスマホなら SIM ロック解除できる (購入直後でも解除できるようになった)

はじめに

近頃メディアで取り上げられる機会が増え、俄か熱を帯びているサイバー都市・深圳 (深セン) 。現地のネットサービスを体験しに中国を訪れようとする人も多いだろう。大容量の通信を安価にできる、中国の通信手段についてここにまとめる。

中国での通信手段は「ローミング」が原則

「中国国内で Google Twitter Facebook 、LINE や Instagram が繋がらない」というのは有名な話。これは中国国内のプロバイダはグレートファイアウォール (GFW, 金盾) により特定のサービスへの接続が制限されている。中国国内で販売されているプリペイド SIM や、中国の SIM を用いた レンタル WiFi 、またホテルや公共施設の WiFi は中国からの通信であり、この制限が適用される。

一方、ローミングは契約元の通信事業者 (ドコモやKDDIなど) を経由するため、グレートファイアウォールの影響を受けない。中国での通信手段は、海外から持ち込んだ SIM を用いたローミングがベストである。

日本の SIM ローミングするか、海外の SIM ローミングするか

前述の通り、日本で普段使っている SIM でもローミングできることが多いが、以下の点に注意が必要である。

ドコモはキャンペーン料金 (何度も延長している) ではあるが、1980円であり、また暦日ではなく利用開始から24時間単位で計算されることから 2-3 泊程度の利用ではおススメである。一方、ソフトバンクや格安SIMの場合、また滞在期間が長い場合は、香港のプリペイド SIM を購入して使うのがおススメだ。

SIMフリー / SIM ロック解除ができるスマホを持っている場合

中国聯通香港のプリペイド SIM がおススメ

これまで、いくつかの選択肢があったが現在はこの「中国聯通香港 (China Unicom) 4G 中港7日 2GB 上網卡」という SIM で間違いない。

7日間、2GB まで通信可能。使い切った場合のチャージは日本のクレジットカード (VISA / MasterCard) でもできるので安心。チャージ方法はカードの台紙に書いてあるので捨てないように!

SIM ロックの解除が必要であれば日本ですませておく

20155月以降に日本の通信事業者から発売されたスマホiPhone でいえば iPhone 6s / SE 以降は SIM ロックの解除ができる。昨年(2017年)12月にルールが変わり、分割払いの場合は購入から120日、一括払いの場合は購入日から解除することが可能だ。また分割払いであっても、通信事業者の窓口で割賦を繰り上げ返済すれば即日解除できる。SIMロック解除の手続きはオンラインできる。費用は無料で、解除することに伴い違約金などが発生することもない。

MVNO (格安SIM) の場合は SIM ロックが解除された状態で販売されていることがほとんどだが、UQ mobile が販売する iPhone Y!mobile (ワイモバイル) が販売する全機種には SIMロックが施されていることがあるので注意が必要だ。

なお、iPad SIM フリーかどうか、SIM ロックの解除を実施したかどうかに関わらず、手続きなしで海外の SIM を使うことができる。

SIM ロックがかかったスマホしかない場合

日本の通信事業者が提供する国際ローミング(海外パケット定額)をつかう

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ドコモ、auソフトバンクY!mobile のいずれかと契約している回線であれば国際ローミングができる。前述の通りドコモと au 980/24時間 (キャンペーン料金)、ソフトバンク Y!mobile 2980/1日(暦日単位) だ。

なお、ドコモは事前に「海外1dayパケ」申し込みが必要になるので、あらかじめ日本で済ませておくとよい。

または Wi-Fi ルータまたは SIM フリースマホを買おう

SIMロックが解除できないスマホの場合、または日本の国際ローミングを維持したままプリペイドSIMを使いたい場合 (電話を受ける必要があるビジネスマンなど) は、中国で使える WiFi ルータや SIM フリースマホを新たに買ってもよいだろう。

WiFi ルーターは去年に引き続き Battery WiFi がベスト。電池持ちがよく、また中国の周波数帯に最適化されているため電波の掴みがよい。

海外用に SIM フリースマホを買うのであれば、”SIM2枚刺し (DSDS)” を要件に以下の機種をおススメしたい。

HUAWEI P10 lite

日本でも多くの格安 SIM 業者がサポートしていることから、流通量が多く手に入りやすいスマホ。中国滞在中に便利なだけでなく、日本国内においても格安 SIM で使いやすくできている。

→China Unicom は OK、 China Unicom 非対応 (TD-LTE 対応なし)

ASUS Zenfone 4 MAX

こちらも格安 SIM 業者の多くがサポートしていて手に入りやすい。

→ China Unicom は OK、China Mobile はエリアが狭い (TD-LTE B38, 41)

HUAWEI P10

5万円代と高くなってくるが、カメラの品質もよく普段使いにももってこい。後述の中国移動 (China Mobile) の周波数帯にも対応してくる。

→ China Unicom は OK、China Mobile も OK (TD-LTE B38, 39, 40, 41)

上級者向けのトピック

(以下は中国へよく行く人、また携帯電話への高度な興味がある人向けの話)

中国の周波数帯への最適化は必要か?

去年のエントリでは TD-LTE (Band 38-41) への対応が望ましいとしてきたが、中国聯通香港の SIM China Unicom ローミングする限りにおいては、あまり気にする必要がない。世界中のほとんどのスマホが対応する Band 3 のエリアが広く困らないからだ。

もっとも、中国移動香港の SIM (2-in-1など) を使い続けている人は、引き続き TD-LTE への対応が必須である。また、後述の「タイやシンガポールプリペイド SIM 」を買いたい場合、中国移動にローミングされるため、このケースでも TD-LTE への対応を見流べきだ。

中国大陸の SIM なら中国联通の日祖卡を現地で契約

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ローミング GFW の外になるので、Twitter Facebook が使える反面、百度や高德地図などへのアクセスは遅い。またローミングの場合 1GB あたりの単価が 800 円程度と、気軽につかうには厳しい。

中国聯通 (China Unicom) の日祖卡は、月に6元、500MB/1/日と非常に安く通信ができる。店舗によって扱いがないことがあるが、空港やイミグレなど域外からの訪中者が多い街のショップでは対応してくれることが多い。(201711月現在、皇岗口岸の China Unicom では取り扱っていた)

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こちらの1元日租卡は「使わない月は5元、データ通信を使った日は1日1元(広東省)または2元(それ以外の地域)がかかる」という SIM 。月に80円程度で維持ができる。この SIM は 2017年12月にリニューアルされたもので、広東省の外でも安く (800MB/2元) 使うことができ、とてもよくなった。

GFWの問題があるため、VPNを自前で用意できる人や DSDS 端末でこまめに切り替える使い方ができる人におススメ

国電話番号の SMS 受信は eSender が便利

博元信息が提供している「易博通」(eSender) は、中国の電話番号を手に入れて SMS の受信ができるサービスだ。このサービスを用いることで、中国の電話番号しか登録できないサービス (DiDiなど) や金融機関への登録のために、WeChat アプリを経由して電話番号を入手、SMS 経由の確認コードや連絡を受けることができる。

本件は、以下のエントリーが詳しい。

GlocalMe などの eSIM WiFi ルータはどうか

最近、各国の eSIM WiFi ルータと呼ばれる「世界各地で現地のSIMを自動的にダウンロードして通信を確保してくれる」サービスが出てきた。筆者はまだ試していないが、GLOCAL NET の場合、中国大陸では CMHK SIM をダウンロードして接続を確立してくれるため、GFW を回避できるとのことだ。(類似の GlocalMe, Skyroam, PocketFi では GFW の影響を受ける)

ただし、eSIM 技術は発展途上であり、SIM のダウンロードに時間がかかったり失敗することがあること、また提携先が変わる可能性があり、今後 GFW の対象になることもありうるのでおススメはしにくい。

シンガポール StarHub Happy Roam、タイ True TRAVEL SIM ASIA も要注目

香港以外からも国際ローミングが使いやすいプリペイドSIMが売られている。

シンガポール StarHub Happy Roam シンガポール国内のデータパックがそのまま中国を含む対応地域 (日本も含まれる) で利用でき、有効期限3日の 1GB パックを 5SGD (シンガポールドル) で購入でき、400円強の単価を得られる。そして、有効期限7日の10MBパックを 1SGD で買い足すと、先に買った1GB パックまで有効期限が7日伸びておトク (パック一覧)。

ただし、この SIM は通販では購入できず、必ずシンガポールに自ら訪問し、パスポートを提示して購入する必要がある。(チャージはネット経由で世界中からできる)

TRUE  TRAVEL ASIA SIM  Amazon で購入でき、8 日間で 4GB も利用できる。値段も 1500 円以下で売られており、GB単価は400円を切る。 

ただし、この SIM はオンラインでのチャージができないため、現地で使い切ってしまった場合は苦労することになる。

なお、これらの SIM は中国移動 (China Mobile) にローミングする。iPhone であれば中国移動が用いる周波数帯 (TD-LTE) に対応していることがほとんどだが、Android の場合は対応してないことが多い。よくわからない場合は安定の「中国聯通香港 (China Unicom) 4G 中港7日 2GB 上網卡」を買っておこう。

香港空港での中国移動香港プリペイドSIMの現地調達について

昨年のエントリでは「香港空港で中国移動香港のプリペイドSIMを調達する」話も書いていたが、中国聯通香港の SIM Amazon.co.jp で安価に調達でき、機種を選ばないことから、今回のエントリでは紹介していない。

一方、香港で現地調達の必要があり、かつ香港空港から深圳に直行する場合は、香港空港でプリペイドSIMを購入することになるが、香港空港で買えるSIMは中国移動香港のもののみだ。幸いなことに、現在では「中国香港両用SIM」を買わずとも、どのSIMに対しても中国でのデータパックを購入することができるようになった。要件は以下の通り。

おさらい

2018年になって、SIMロックの解除要件が緩和されたこと、また中国聯通香港のLTEプリペイドSIMが容易に手に入り、グレートファイアウォールの規制を受けないことから、非常にお手軽になったと言えよう。

また、中国によく出入りしている人には、単価が安いプリペイドSIMがタイやシンガポール経由で調達できるようになったこと、また現地SIMが一層安くなったことが朗報と言える。

中国の SIM 事情は定期的に変わるので、何か新しい情報があり次第更新する。

澤田企画合同会社 2017年活動報告

年越し寸前となったが、備忘録と参照を兼ねて 2017 年の総括をば。

あんた誰?

この日記を書いている shao (澤田 翔) は、32 歳の技術者・連続起業家で、2008年にアトランティス (スマートフォン広告) の立ち上げに関わり、2011年にビットセラー (カメラアプリ) を立ち上げて KDDI に売却し、2017年よエンジニアリング・ITアドバイザリーを提供する、澤田企画合同会社を立ち上げた。社名に名字が入っていることからわかるように、私が代表と業務執行者を兼ねており、妻が後方を固めている体制の「家庭内企業」とでもいった風情である。

会社のテーマは

「テクノロジーと課題をつなげる」ことが弊社が提供する価値であると定義している。実社会に存在している大半の課題は、技術の組み合わせで解決できると信じている。ソフトウェアの開発や運用を通じて培った知見、中国をはじめとした世界のスマートシティの事例、決済システムや仮想通貨などのフィンテック (金融テクノロジー) などの専門分野を生かし、課題への技術的解決策を提供することを業としている。

「エコシステムの最大化」から収益を得る事業モデルを目指す

この1年注力した分野は「決済サービス」や「仮想通貨」に代表されるフィンテックである。一般的な業務委託の場合、これらの開発プロセスの一部または全部を引き受けるエンジニアリングサービスの提供にとどまることが多いが、弊社はプロダクトを取り巻くエコシステムの構築のお手伝いもさせて頂いている。具体的には世界中、とりわけ中国をはじめとしたアジア諸国の先進事例を紹介するとともに、関連したサービスを提供する各社、またそのデバイスやアプリケーションを作るための EMS ソフトハウスなど、フィンテックの事業や開発を迅速に進めるためのパートナーとの連携をプロデュースしている。

例えば、深圳で日本品質の EMS (電子機器の製造サービス) を提供しているジェネシス様は、スマートデバイスを「IoTサービスの構成要素」として安定的に供給されており、弊社でも度々紹介させて頂いている。 

また、将来的にエコシステムにおいて重要な役割を果たせそうな、ポテンシャルの高いベンチャー企業からご相談をいただくことがあり、そうした新しい会社や起業家に対し、技術面、戦略面でのアドバイザリーサービスを提供している。

こうしたパートナーを通じて、取引先の開発プロセスの改善につながるエコシステムの構築を目指している。

案件例1: paymo biz (QRコード決済サービス)

案件例2: SynCryp (現在はサービス終了)

2017年、注力したテクノロジー

Web ブラウザやアプリなどのプレゼンテーション層において、コンポーネント化が進んできたこともあり、サーバ側もコンポーネント化のトレンドが進んでいると実感している。特に今年は GKE (Google Kubernetes Services) を基盤とした micro services の導入にかかり、ドメイン設計から開発、デプロイ、運用までの一連の知見を蓄え、エンジニアリングサービスに生かしていった。

また、仮想通貨に関しては ICO (Initial Coin Offereing) 案件の引き合いが多く、 スマートコントラクトと呼ばれる Ethereum という仮想通貨ネットワーク上で動くプログラムの開発、また複数の仮想通貨取引所と接続したトレーディングシステムの設計などにも注力した。

SRE (Site Reliability Engineering) 、すなわちサービスの安定稼働を目標とするエンジニアリングサービスでは、障害を検知する機構に機械学習を取り入れた。

2018年に向けて

2018年は、仮想通貨の技術を基盤としたアプリケーションがより注目されると考えている。ボラティリティの高いコインはさておき、船積証券やデポジットなど「世の中に1つだけ存在することが保証されなくてはいけない」ものはたくさんあり、それらをブロックチェーンの基盤で構築することで安価にシステム化することができる。また、仮想通貨にせよ決済にせよ、そしてIoT全般にも言えることだが、システムのインタフェースとしてセキュアで安価なハードウェアの開発のニーズはさらに高まると見込んでいる。

来年は「仮想通貨アプリケーション」と「セキュアで安価なハードウェア」の開発技術を中心に研鑽を進め、皆様のご期待に応えられるように精進していく。

 

来たる年もどうぞご贔屓のほどお願いいたします。良いお年をお迎えください。

おやつのシェアやコミケにぴったり! 個人で paymo biz のクレカ決済を導入する

本エントリで取り上げた QR コード決済機能は廃止されました。現在は使えません。

個人でもクレカ決済に対応できるQRコード決済サービスが日本でも

paymo biz は QRコードを作成するだけですぐに支払ってもらえるサービスだ。決済というと、お店が導入するイメージだが、paymo biz はお店だけでなく「職場でシェアしているお菓子代を集める」「趣味で作っている同人誌を即売会 (コミケなど) で頒布する」といった、個人的な集金をクレジットカードで払ってもらえるようになる。

個人でも使えるQRコード決済は WeChat Pay など中国で進んでいる印象だが、このサービスは日本で使うことができ、クレジットカード (VISA / MasterCard) で払ってもらうことができる。

筆者は袋入りのナッツやプロテインを職場の同僚とシェアするのに、このサービスを使っている。

使い方は?

生成したQRコードを読み取ってもらい、「いくら払います」と入力してもらうだけでOK 。

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paymo biz で生成したバーコードを paymo アプリで読み取り、金額を入力してもらう

一度生成したQRコードは不変なので、紙にプリントアウトして張り出すこともできる。電源不要なのでコミケやフリマでも使いやすい。

登録は?

個人的な集金であれば、フォームへの記入だけ*1でOK。

paymo biz のページでサインアップ (Facebook ログインだと便利) し、メニューの「お店QR支払い」を選び、連絡先を書く。(購入した人に連絡先として表示される。メールアドレスや電話番号でも良い)

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アカウント設定の基本情報から、お店の名前を設定する。

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販売者情報で、氏名や生年月日、住所、売上金の振込先口座を入れる。(後でもよいが、これを入れないと売上金を受け取れない)

事業区分は「事業用途」と「事業用途ではない」がある。おやつのシェアやコミケのサークル活動、パーティーの集金など、法人や個人事業主として納税しないような用途であれば「事業用途ではない」を選ぶとよい。

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以上で手続きは終了だ。たぶん5分ぐらいで終わる。

実際の取引は?

paymo biz アプリ (iOS / Android) をスマホにダウンロードし、同じアカウントでログイン*2すると、お店のQRコードを表示できる。また、paymo biz のサイト で商品を登録することで、読み取ったユーザが金額を入力しないようにもできる。

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一度生成したQRコードは不変なので、 QRコードを紙や看板に印刷しておくのも便利。パソコンでログインしてプリンタで印刷する。

一方、購入者側は paymo のアプリをダウンロードしておくか、任意の QR コードリーダーで読み取り、 Web ブラウザにクレジットカード情報を入力することで支払える。最初の支払いのハードルがちょっと高いが、オフィスや即売会などでみんなが使うようになれば便利だと思う。

手数料は?

初期費用は月額費用はかからない。決済手数料も今は無料で、引き出しにだけ手数料がかかる。(1回200円)。引き出し手数料は申請をしたタイミングでかかるので、何ヶ月分か売上を貯めてから引き出せば手数料の節約になる。

決済手数料がかかる pixiv pay や paypal に比べて、かなりお得だ。

まとめ

個人でもすぐに使い始められて便利。コミケや屋台、オフィスなどに QR コードをどんどん貼りまくろう。

開示事項

私が所属する会社 (澤田企画合同会社) では、paymo を開発している AnyPay 株式会社と取引関係があります。本記事は個人の所感であり、 AnyPay 株式会社の意見ではありません。

 

*1:事業で使う場合や、酒など許認可が必要なものを売る場合は書類の提出も必要なことがある。

*2:TwitterGoogleでログインした場合、アプリのログインではパスワードの設定が必要

第7回 ニコ技深圳観察会(2017/04)参加レポート: テクノロジーに夢と可能性を感じるエコシステム

2017年4月3日〜8日にかけて、tks さんが主催している、「ニコ技深圳観察会」に参加してきた。私は去年に続き、2回目の参加となる。

集まった方は非常にバラエティに富んでおり、ハードウェアエンジニア、Webエンジニア、記者、VR/MR開発者、ファッションクリエイター、経済研究者など非常に多岐にわたり、とても貴重な時間を送ることができた。

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今回訪問させていただいた先の個々のレポートについては他の方から詳しくあがると思うので、今回のツアーを通じて感じたことを中心にレポートさせていただく。

TL;DR (この文章で言いたいこと)

深圳は「テクノロジーで未来がよくなる」と本気で思っている人が多く集まったことにより、イノベーションを連続的に生み出すエコシステムが成立している。

このエコシステムは「工場が安い」「大きな電気街がある」ことが理由で成立しているわけではない。(現に工場の賃金は相当上昇しているし、電気街で仕入れた部品をプロダクトにすることは稀である)。テクノロジーと人との繋がりを最大限に活かして迅速にプロダクトアウトまで持っていける能力が、まさにイノベーションの源泉であり、深圳のエコシステムはこの能力を最も重要視している。

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本レポートでは、この「深圳のエコシステム」について、今回の観察会で感じたこと、またこの1年、幾度と深圳に足を運ぶ中で気づいた変化についてまとめていく。

ハードウェアスタートアップからテクノロジースタートアップへ

バブル期に日本企業から家電やゲーム機の製造を引き受けていた工場は、受託を通じて自分で回路を起こせる技術を持ち、やがて「山寨」(シャンザイ)と呼ばれるコピー商品を作るようになった。Amazon楽天で見かける、ブランド不詳のモバイルバッテリーや Bluetooth スピーカーなどが一例である。こうした商品は、回路設計や部品が会社を跨いで出回っていることから、非常に少ない手間で量産し、出荷できてしまうことから競争優位性に乏しい。既存のハードウェアの真似では儲からないし、少々イノベーティブなハードウェアをつくったとしても、そう時間が経たないうちにハードウェアは真似されてしまう。

いま生き残っている深圳の企業は「他社が追従できないレベルまで品質を高めたハードウェアを売る」か、「ハードウェアだけでなく、周辺サービスやソリューションを含めたテクノロジー全域でプロダクトをつくる」ことができている会社だと思われる。

3日目に訪れた Insta360 は、全天球カメラ (360°カメラ) を手がけるスタートアップである。彼らはカメラというハードウェアだけでなく、付属のソフトウェアが大変作り込まれていて、(中国のハードウェアなのに) Facebook や Periscope (Twitter のライブ中継サービス) を用いて 360°動画のライブストリーミングができるようになっている。また、全天球カメラのユーザー投稿型サイトも運営しており、ユーザ同士のコミュニティも形成されている。ソーシャル上に占める全天球動画のアップロード数では SamsungRICOH といった大企業を差し置いてトップのシェアを誇っている。

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また、1日目に訪れた、日本向けに IoT / ICT デバイスの製造受託を引き受けている JENESIS も「ハードウェアは極力単純化してソフトウェアやクラウドサービスのレイヤーで差別化を図る」ことを勧めていた。JENESIS は深圳に既にある回路設計や部品を最大限活用し、まさにエコシステムに乗っかるかたちで、コモディティ化されたハードウェアを迅速に、かつ日本の顧客が満足できる品質 で供給してくれる。スタートアップ企業は、ソフトウェアとクラウドサービスの開発にフォーカスできるようになり、テクノロジー全域で勝負することができるようになるだろう。

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3日目に訪れた Ash Cloud は、スマートフォンのアクセサリを梱包する会社だが、その工程の管理がとにかく卓越している。自社でつくった iOS で動く生産管理システムは、従業員の勤怠管理から生産性のトラッキング、さらにはラインの管理まですべてを網羅している。ラインごとの生産性、すなわち生み出す収益はリアルタイムで算出され、効率の悪いラインは速やかに工程や人員の見直しが行われる。また、ロボットでも業務が行われており、ロボットが人間の能力を上回った仕事から順に、労働者がロボットに置き換えられていくとのことだ。

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テクノロジーがすべてを支配する様は恐怖すら感じるが、ハードウェアの生産に対して過剰なほどソフトウェアテクノロジを注ぎ込むことにより、生産効率を飛躍的に向上させ、競争優位性を確保しつづけている。

テクノロジーが都市を変えていく

もともと中国のフィンテックサービスを研究していたため、今回、ツアーに参加される方に WeChat Pay の利用を勧めていた。

WeChat Pay はチャットアプリ「WeChat」で支払いや送金ができる機能であるが、これを用いた数多くのサービスが深圳にあり、実際に深圳市民の多くが利用している。

スーパーやコンビニなど WeChat Pay を導入している店舗において支払いができるのはもちろんのこと、「QRコードを読み取ることで、対面で送金ができる」機能があることから、小規模な商店や屋台、露店に至るまであらゆる場所で、WeChat Pay を用いてお金を受け渡すことができる。

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もちろん日本でも Suica やクレジットカードなどの決済手段は存在するが、店舗は加盟店として登録する必要がある他、専用の機器の導入や手数料の負担など導入のハードルは高い。そのため非対応の店が相当数出てしまう。WeChat Pay の対面送金機能は、まさにその穴を埋めるものであり、「お金を渡す」行為のすべてが WeChat Pay でカバーでき、本当に現金を使わずに生活ができてしまう。

さらに、WeChat Pay はネット越しにお金をやりとりできるため、さらにユニークなサービスも生まれている。

深圳の街中を歩くと、オレンジや黄色、青などのカラーに包まれた自転車が多数置いてあるのを見かける。これはシェアリング自転車であり、使いたい人は自転車についたバーコードやシリアル番号をスマートフォンのアプリで読み取り、WeChat Pay で精算することで自転車に乗ることができる。自転車を返す場所は特に決まっておらず、適当な駐輪スペースに停めてアプリを操作すれば返却したことになる。また、自転車を故意に損壊することを防ぐため、WeChat Pay で保証金を預ける必要もある。これらのサービスとして有名なのは Mobikeofo である。

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また、レストランに行くと机の上に QR コードが貼られていることがある。この QR コードはテーブルごとに異なっており、WeChat アプリでスキャンすることで、スマートフォンに表示されたメニューから食事をオーダーすることができる。もちろん決済は WeChat Pay で行われる。すなわち「メニュー本を見る」「店員を呼ぶ」「店員がターミナルに打ち込む」「伝票を持ってくる」「精算する」という一連の流れが WeChat アプリで完結してしまうのだ。

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こうしたサービスが生まれ、深圳の街に定着したのはこの1年ぐらいの出来事である。レストランの QR コードオーダーはまだこなれてなく、注文が忘れられてしまうこともあってご愛敬だが、そういった buggy な部分も含めて「便利そうだから、まずは使ってみよう」というのが深圳という都市で見られる光景である。

エコシステムを支える STEM 教育と maker space

新しいテクノロジーを作るのも人間であるし、また活かすのも人間である。深圳で起きるイノベーションの数々を見ても、またWeChat Pay の浸透をみても、こうした層が非常に厚いと感じる。もちろん年齢層が若いというのもあるが、それで説明がつかないほど彼らのレベルは高い。

Makeblock は深圳を拠点としたメイカー向けの DIY キットを手がける会社で、Makeblock をはじめいくつかの DIY キットを Kickstarter でローンチし、現在は Amazon などを通じて世界に販売している。

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Makeblock は組み合わせ可能なハードウェアに加え、言語を記述しなくてもプログラミングができる mblock というビジュアルプログラミング環境が付属しており、これを用いることでブロックを実際に動かすことができる。こうしたことから、教育機関での採用例が多く、STEM (Science TEchnology Mathmatics) 教育のカリキュラムとして採用されることが多い。実際に教育機関で扱いやすいよう、教材や教師向けの手引き、学校用の一括導入パックまで整備されている。

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イカーの祭典である Maker Faire は、メイカーがコミケのようにブースを構え、自主制作のプロダクトを発表する場であるが、今回の観察会後に訪問した Maker Faire Hong Kong (香港は深圳の隣にある) では、多くのメイカーが子ども向けに体験ブースや教室を開いており、実際に小学生から中学生程度の人を多く見かけた。また出展する側も高校生〜大学生がかなりの部分を占めており、テクノロジーを探求する若年層の厚みを感じた。

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また深圳にはメイカースペースと呼ばれる、メイカー向けに機材を揃えたレンタルスペースが数多く存在する。2012年に深圳で最初のメイカースペース Chaihuo が生まれ、最近ではメイカーやイノベーター向けに特色のあるメイカースペースが出てくるようになった。Trouble Maker のように、スペースや機材だけでなく、ファンドとのリレーションから法務サービス、プロモーションビデオ制作、流通などをワンストップで提供する場所が出てきた。Chaihuo x.factory ではメイカー向けの教育やコンサルティングのプログラムを充実させている。メイカーのステップや目指す方向性によって異なるニーズを、それぞれのメイカースペースが解決できるようになってきた。

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イノベーションの担い手を歓迎する街

迅速なプロトタイピングを支援するメイカースペース、スマートフォンを用いたフィンテックサービス、少数生産に特化した工場など、いずれも深圳のエコシステムにおける特徴的なファンクションであることは言うまでもないないが、その背景にある「イノベーションを支える仕組み」が最もユニークで重要なものであると思う。

イノベーションを支える仕組みの根幹にあるのは、ハードウェアであれWebサービスであれ、何かを生み出そうとしている人を支えたいという気持ちに応えようという機運が高く、そのために実際に行動する人がいること。そして行動する人同士でつながる強固なネットワークが存在することだろう。

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HAXやChaihuo、SEGなどはサービスとして試作空間や資金、セミナーを提供するだけに留まらず、何か新しいことを手がけようとする我々に対し、本気で相談に乗り、WeChatでコミュニティに引き合わせてくれ、取り組みに対して惜しみない支援の手を差し伸べてくれる。

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ニコ技深圳観察会そのものも高須さんをはじめ、参加者相互による手作りのツアーであるが、そうした企画に対して最大限協力してくれるのが、まさに深圳のコミュニティである。
また、私自身も日本のインターネットスタートアップ企業のチームを引き連れてプライベートな観察会を何度か手がけているが、この取り組みに対しても、深圳のコミュニティから多くの支援をいただいている。

サービスで支えてくれる会社もある。前述の JENESIS は、日本交通や大手の教育機関などからそれなりのロット(製造単位)でハードウェアの製造を請け負う会社であるが、ベンチャー企業については別の観点で引き受けを考えてくれる。採算やスケジュールなどの観点ももちろんあるが、いちばん重要視しているのは「事業に対する作り手としての熱意」であると JENESIS 代表の藤岡氏は語る。熱心なイノベーターに対して寄り添う姿勢は、ここに限らず深圳のあらゆる場所でみることができた。

イノベーションの現場に変貌する深圳

「深圳の1週間はシリコンバレーの1ヶ月に相当する」と言われているほど変化の速い深圳。初めての訪問はちょうど1年前のニコ技深圳観察会であり、そこから訪問を繰り返していく中で多くの変化を感じ取ることができた。その中でも特に印象的だったのは、深圳を起点にエコシステムと市場を世界に広げようとする人が増えたことではないだろうか。DJIは言うまでもなく、Insta360 や Makeblock などは海外向けにプロダクトを輸出し、世界的なコミュニティの醸成に成功している。街中をみても1年前に比べ、英語が通じるシチュエーションは増えているように感じる。そして、そのエコシステムを活かそうと全世界から人々が集まりつつあるのが今の深圳だ。

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テクノロジーに夢と可能性を感じ、最速で進化を遂げる街、深圳は急速に世界のイノベーションの現場に近づいているように感じた。