テスラ試乗会はじめました

次世代のモビリティに惹かれ、テスラ (TESLA Model S) を買って1年。

数回のオンラインアップデートを経て、ついに自動運転までできるようになったものの、その面白さや意義について、これまで発信しきれてなかった部分が多かった。

そんな中、ニコ技深圳観察会に参加させていただいたとき、主宰の高須さんに「テスラに興味のある人に、どんどん乗ってもらってブログを書いてもらえばいいんじゃない?」と言われた。なるほど、これはいいアイデアだ。より多くの人がその手で体験し、インターネット上で感想をシェアする。みんなの力を合わせることで、ひとりでは為しえない、大変有意義なものになるに違いない。(ニコ技深圳観察会もそのルールで進められている)

ここに、ギークのためのテスラ試乗イベント "TESLA TEST DRIVE for GEEK" を開催することとした。

 

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概要

  • テスラに乗って、モビリティの将来像に思いを馳せる
  • 自己責任、手弁当 (無償) で行うため、諸経費 (交通費、自動車保険) は自己負担
  • 各自、感想をブログなどでシェアする

今後の開催予定、参加希望など

今後の開催も計画している (無理のない範囲でできる限り開催したい)。興味がある方は TESLA TEST DRIVE for GEEKFacebook グループへお願いします。

https://www.facebook.com/groups/492185077637158/

開催履歴とブログへのリンク

参加いただきました皆様ありがとうございます。寄せていただいたブログはこちらよりご覧いただけます。(随時更新)

2016/07/16 - 07/17

NT金沢という、ニコニコ技術部による自主作品の展示会があったので、テスラを金沢に持っていってみた。16人もの方に試乗してもらった。詳細は別エントリーを参照いただきたい。

2016/06/11

常磐道を抜けて筑波大学へ。高須さんが持ってきてくださった nine bot mini に大興奮。

チームラボ 高須さん

深圳視察会の主宰であり、今回のきっかけをつくってくださった高須さん。nine bot mini を持ってきて道中でモビリティの未来とデザインについて非常に熱く語ってくださいました。

okkakii さん

飛行機でかけつけてくださった、某Webサービスの管理人さん。自動運転の挙動とテスラのギミックに強い関心をもっておられました。

東工大 長谷川晶一さん

テスラの自動運転に対する設計思想など、深い考察をいただきました。また、つくばでは江渡さんを誘っていただき、さらに充実した時間を過ごせました。

ニコニコ学会β / 産総研 江渡浩一郎さん

目的地のつくばで急きょお声がけしたところ、快諾していただき飛び込み参加いただきました。今回は保険の手配が間に合わずに同乗体験となってしまいましたが、テスラとnine bot に強い興味を持っておられます。今度は運転体験でお越しください。

2016/06/05

はじめての試乗会。中央防波堤、羽田空港大黒ふ頭をまわるコースで開催。

リコー・つくる〜む 井内さん

リコーの社内に「つくる〜む」というFabLabのようなスペースを立ち上げられた方。書籍「メイカーズのエコシステム」に寄稿されています。

レポートを上げてくださいました。その後、電気自動車に興味を持たれ、BMW i3 も試乗に行かれたとのこと。電気自動車が広がるといいですね!

TESLA Model S 体験してみた - Euclides Lab.

LYNX 堀内さん

深圳に足繁く通われている「深圳通」で、先日の深圳ツアーでも大変お世話になったお方。今はマニュアル車に乗られているとのことですが、それでも魅力的に映ったとのことです。

タクジさん

遠く沖縄から体験にいらっしゃったパワフルなお方。テスラのスマートなパッケージングに関心を寄せておりました。

むすびに

自分はブログにまとめるのが下手なので、こうして参加いただいたみなさんのレポートがあがるのは非常に楽しく、また刺激的である。

今後もできる限り多くの人に体験してもらい感想を広めていただきたいが、1回の試乗会で3〜4人程度しか体験できないのが難点。それでも可能な限り開催したいと思うので、興味があってブログ等をお持ちの方は Facebook グループに参加 し手を上げていただけたら幸いである。お待ちしております。

中国 深圳に行くためのモバイル環境 (スマホ/SIM) の準備まとめ

この記事は古いです。最新の状況は以下のエントリを参照してください。

shao.hateblo.jp

※2016/07/03更新済 (Nexus 5X在庫状況、huawei P9、中国移動香港の利用者登録の話を追記)

世界の工場、フィンテックそしてスマートシティの先駆けとして盛り上がりを見せる深圳 (深セン) 。GFWに邪魔されず、深圳で快適なモバイル環境を実現するために「用意すべきスマホ」「プリペイドSIMの買い方」をまとめた。

(深圳にハマった経緯は以下のエントリ参照) shao.hateblo.jp

結論から書くと以下の通りである。

スマートフォンの用意

iPhone の場合

日本で販売されている iPhone 6 / 6s / SE は、中国の電波を受けられるようになっている。ただし、 NTTドコモauソフトバンク (以下、国内キャリア) で購入した iPhoneSIMロックがかかっているため、これを解除する必要がある。

国内キャリア版 iPhone 6SIMロックを解除できないので、諦めて後述の「Android を買う」のセクションをみてほしい。

iPhone 6s / SE で、購入後半年経過した場合は SIM ロックの解除ができる(無料)。解除は以下のページで行う。

なお、Apple StoreSIMフリー版の iPhone 6 / 6s / SE を購入した場合は特に手続きをせずに海外のSIMを利用できる。

Android の場合

日本国内のキャリアで販売されている Android は、中国の電波を受けられる仕様になってないことが多い。正確には

  • 電話や SMS は使える
  • データ通信 (パケット) はつながっても、極めて遅い (4Gはおろか、3Gですら繋がらず、0.1Mbps程度の「超ノロノロ通信」になる)

という状況になることがほとんどだ。中国で使える機種は以下にまとめているが、「Nexus 5X/6P か honor 6 Plus を通販で買う」か「中国現地で Xiaomi を買う」がオススメとなる。

中国で使える SIM フリー端末 - Google Sheets

(4/30 追記) キャリア版の Nexus5X/6P および、ドコモで最近発売された一部の Android についても中国移動のLTE (TD-LTE) に対応している。

https://www.nttdocomo.co.jp/service/world/roaming/area/device_list/network.html?country=4600000&carrier=03310&city=www.nttdocomo.co.jp

(SIMロック解除の手続きが必要であり、上記リストに含まれる機種で Galaxy Note Edge / S6 / S6 Edge 以外は購入後 180 日経過時点より SIM ロック解除が可能となる)

Nexus 5X / 6P

Google ブランドで販売されているスマートフォンGoogle ストア で購入することもできるが、EXPANSYS や 1shopmobile などの海外通販サイトから購入した方が安い。

中国で使われている LTE の周波数は3つあるが、そのうち2つに対応している。概ね問題ないとおもう。

LG-H791 Nexus 5X CARBON 32GB 並行輸入品

LG-H791 Nexus 5X CARBON 32GB 並行輸入品

1shopmobile で扱っているのは「グローバル版」であるが、「香港版」というものも存在する。「香港版」は「グローバル版」と対応する周波数 (通信方式) が異なる。中国や香港で使う分には差はないが、香港版は日本や台湾などの一部の電波を掴むことができず、グローバル版に比べて通信速度が遅くなったり電波の入りが悪くなる可能性がある。

ASUS (ZenFone)

こちらは ZenFone 2 Laser (ZE601KL) で値段は 4 万円ほど。中国の LTE で使われている 3 つの周波数すべてに対応しているだけでなく、日本国内や台湾など各国の周波数帯も幅広く対応している。少々高いのと、6インチ/190g と巨大 (iPhone 6 Plus が 5.5インチ/172g なので、それより大きい) なのが難点だが、アマゾンやヨドバシカメラで販売されており、安心してアフターサービスを受けられる点、また出発が間際であっても入手できる可能性が高いのがよい。

ZenFone Zoom (ZX551ML) はお値段 5 万円ほど。こちらも中国および日本、台湾、香港などの各国の周波数帯に対応している。5.5インチ/185g と、ZenFone 2 Laser よりやや小ぶりだが、それでも2台目として持ち歩くには厳しい。

なお、これ以外に日本で売られている ZenFone シリーズは中国の周波数帯に対応してないので注意してほしい。

HUAWEI

honor 6 Plus が 3 〜 4 万円程度で買える。楽天モバイルがセールをしていることが多く 3万円以下で買えることもある。中国、日本、香港などの周波数帯には対応しているが、台湾では使える周波数帯が限られている。5.5インチ/165g で、なんとかなる大きさ。

P8max は 5 万円ぐらい。こちらは 6.8インチ/228g と、まさにファブレット。ここまで来ると、飛行機内で動画や電子書籍をみるなどの用途を踏まえて購入するのもアリだと思う。

HUAWEI P9 SIMフリースマートフォン (グレー)

HUAWEI P9 SIMフリースマートフォン (グレー)

LEICAの技術でとてもイケている写真が撮れる P9 も中国、日本、香港、台湾などの周波数帯に対応している。5.2インチ/144gと比較的軽量級の端末だが、実売は6万円程度でちょっと覚悟がいる値段。

これ以外の日本で売られている HUAWEI ブランドのスマートフォンでは中国の周波数帯への対応が確認できてない。

Xiaomi

中国シャオミのMi 5。5.1インチ/129gと軽量で、値段も 1999元 (3万円台前半) で買える。中国や香港の周波数帯への対応はバッチリなので、現地調達が間に合わないならばお土産がてら、深圳で端末ごと購入してしまうのもアリだと思う。

SIM の用意

SIM は香港のものを手に入れておきたい。中国移動香港 (CMHK) が売っている「4G/3G 香港/中国デュアルナンバープリペイドSIM」がおすすめ。

  • 販売価格: 120HKD (残高 60HKD つき)
  • 香港/中国大陸データパック 118HKD/1GB or 198HKD/2GB (有効期限30日)
  • トータルコストでは 1GB つかう場合 2500 円、2GB つかう場合は 3600 円ぐらいになる。

この SIM は香港と中国大陸のどちらでもデータパックを利用でき、かつ中国大陸でも香港経由の通信となるため GFW (金盾) の影響をうけずに TwitterGoogle を使うことができる。 また、中国の電話番号を入手することができるため、アクティベーションに中国の電話番号でのSMS認証が必要なサービスを使うこともできる。

(2016/07/03 追記)

2016/05/20 以降、利用者登録をしていないと中国番号での電話発着信ができなくなってしまった。登録には居住証明必要で日本人にとってハードルが高い。データ通信については今のところ可能。

www.hkyamane.com

今後は「データのみ」と割り切って 「10日間1.5GBデータSIM」を買うほうがよい。

購入方法

香港国際空港 (ターミナル1の到着階) で購入することができる。深圳にも空港があるが、日本からの便が少ないことから香港から深圳にいくようにし、香港入国後のタイミングで中国移動香港の SIM を購入するとよいだろう。

店員に "prepaid SIM for hong kong and china mainland, voice and data, 1GB" と伝えながら、スマホを店員に渡せば使えるようにしてくれるところまでやってくれる。(クレジットカードで払えるので香港ドル現金の用意は不要) 店員に渡すとき、スマホを英語か繁体中文に設定し、QWERTYキーボードを出しておくとよい。

香港国際空港での入手ができないケース (売り切れとか営業時間外) に備え、事前にアマゾンで買っておくのもひとつの手。(ちょっと高い)

中国聯通香港 (China Unicom Hong Kong) の SIM

筆者は試していないが、中国向け周波数に対応していない Android でも 中国聯通香港 (China Unicom Hong Kong) の SIM を使うことで通信できる可能性がある。

この SIM は中国本土と香港で1GBの通信が「3Gで」できる SIM となっている。(4G や LTE には対応していない) ドコモやソフトバンクスマホが対応している周波数帯が、中国聯通の周波数帯と一部被っているため、使うことができると思われる。

なお香港国際空港ではこのSIMを見かけたことがないので、中国用スマホを持ってない場合は事前に Amazon で買っておくとよいだろう。

よくある質問

まとめ

ニコ技深圳観察会(2016/04)参加レポート: 「モノづくり」から「暮らしづくり」に進む深圳

2016年4月12日〜16日に、中国 深圳市(シンセン市) の見学ツアーにいってきた。

このツアーはチームラボの高須さんが主催され、深圳のメイカーズ(ハードウェアスタートアップのムーブメント)の最前線を体感すべく、工場、ベンチャー企業、支援会社、VC、そして華強北(ファーチャンペイ)の電気街などを巡るというもの。

私はもともとWeb界隈のスタートアップをいくつかやってきた身であり、ハードウェアに関しては門外漢ではあるが、ガジェットや携帯電話が好物であること、今後のインターネットサービスを考える上でスマホやPC画面上でのインタラクションには限界があると感じ、ハードウェアスタートアップのエコシステムについて強い興味を持っていることから、今回のイベントに参加させていただいた。
毎日の出来事を時系列に沿ってすべて紹介すると分量が極めて多くなるので、総括的な部分を中心に取り上げていく。

ハードウェアのアジャイルな開発を実現するエコシステム

Kickstarter や Indiegogo をはじめとする「クラウドファンディングサイト」では、日々新たなハードウェアの計画が発表され、バッカー (支援者) を募っている。物理的なアウトプットを伴わないアプリやサイトならともかく、カスタマイズの域を超えた「ハードウェアスタートアップ」のプロダクトが成立する所以は、ここ深圳にあった。

ツアー初日に訪問した Seeed Studio は、ハードウェアスタートアップに対し、プロトタイピングから試作、大量生産まで一貫したサービスを提供する企業で、ここを利用することでプロトタイピングに必要な開発効率の良いハードウェア (モジュール化されたスイッチやセンサーなど) から、量産に必要な部材カタログ、提携工場とのコネクションなどに至るまでワンストップで賄うことができる。

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古めかしい中国の工場や事務所の雰囲気はなく、まるでシリコンバレーのイケてるベンチャーのような風情。そこかしこに英語で書かれたポスターが貼られ「agile manufactureing」というスローガンが掲げられている。

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HAX は、シリコンバレー発祥の「ハードウェアアクセラレータ」、つまりハードウェア関連の企業に出資と技術支援をする見返りに、当該企業の一定の株を保有する。深圳にオフィスを構えることで、スタートアップが現地で働き,スムーズに量産化できるように支援している。また、Kickstarterとの太いパイプを持っているのが彼らである。

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深圳は中国の南部、香港の対岸に位置し、中国の経済政策において「改革開放経済の特区」として外国投資を誘致。アップルやソニー任天堂などから製造を受託する「OEM」、そして製造に加えて設計開発プロセスを含めてまるごと受託する「ODM」が隆盛をほこった。深圳に集積された設計開発製造の技術をスタートアップが利用できるエコシステムへと昇華させているのが、 Seed Studio や HAX といった企業によるサービスである。 

イノベーションを生み出さないと生き残れない

アマゾンで iPhone の USB 充電器や MacBook の AC アダプタを買おうとすると、あまりに似た製品がたくさん出てきて困惑したことはないだろうか。あるいは「中身は Android の偽 iPhone」や「謎のブランドの Bluetooth スピーカー」とかを秋葉原で見たことがある人もいると思う。こうしたものは「山寨」(シャンザイ) と言われるもので、流行のプロダクトをいち早く真似して市場に安価で送り出すモデルである。これも深圳では主流で、華強北 (ファーチャンペイ) という現地の電気街では、スマートウォッチやアクションカメラ (Go Pro のようなもの) の山寨は何百もの店が取り扱っている。

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こうした店は未だ多いものの、淘汰と転換がじわじわと進んでいる。深圳で働く工場員の給料は10年で2〜3倍へと膨れあがったことでコストが増大し、また中国政府も最近は知財保護を進めているため、あからさまな海賊版商品やマジコン (家庭用ゲーム機のソフトウェアを、正規の流通以外で入手して実行ことができるハードウェア) を扱う店は激減し、また空き店舗もかなり多くなっていた。イノベーションがなく模倣のみで成立する山寨は淘汰が進んでいくと思われる。

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 このような中、これまで電子部品と山寨の中心地であった華強北を「創家」すなわち「メイカーズ」の中心地に変えていくことで生き残りを図る動きがでてきている。華強北で最も歴史のあるパーツショップビルである "セグショッピングモール" の一角には、ビルオーナーが "Seg Maker+" というハードウェアスタートアップの拠点をつくり、メイカーズの取り込みに力をいれている。(FabLab とよばれるハードウェアプロトタイプに必要な機器類が自由に使える拠点で、秋葉原の DMM.make AKIBA に近いイメージ)

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また、深圳市も "Shenzhen Open Innovation Lab" という FabLab を立ちあげている。このように環境が揃っているとはいえ、メイカーズが溢れんばかりに殺到しているかというと、そうもいかないのが実情であり、「山寨からメイカーズへ」と銘打った活動を隅々まで行き渡らせるのには大分時間がかかりそうだ。 

教育により拡大するエコシステム

メイカーズのエコシステムを拡大させるもうひとつの取り組みが「教育」だ。先にとりあげた Seeed Studio は、Grove というキットを販売していて、これはセンサーやモーターからなるハードウェアを、ハンダごてやプログラミングの知識なしに組み立てられる初等教育向けのキットであり、実際に小学生がつくった「タッチすると動くクルマ」が展示されていた。

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MakeBlock はオープンソース版「レゴ Mindstorm」で、ロボティクスに必要な部品をキットにして販売しており、こちらもハンダごてやプログラミングの知識なしにロボットをつくることができる。(ケーブルはLANケーブルのような「モジュラー」で接続できる) オープンソースゆえ、MakeBlockと互換性のある部品が各社から発売されており、教育やプロトタイピングの領域が急速に広がっている。

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このように、メイカーズの卵を育てるための「ハードウェア制作キット」のビジネスを手がけるプレーヤーは多く、こうした教材はシンガポールの教育プログラムにも取り入れられている。

「便利になるならやってしまおう」の精神

このように山寨イノベーションの狭間をさまよう深圳の電気街であるが、街に目をむけると日本では思いも寄らないようなプロダクトに溢れている。
街中の至る所に QR コードが貼り付けられ、そのハブとなっているのは WeChat (微信) だ。WeChat は LINE のようなチャット機能が原点だが、WeChat 内蔵の QR コードリーダーで街中の QR コードをかざすことにより、ありとあらゆるサービスにつながるようになっている。
ランチで立ち寄ったレストランには「免費WiFi」(免費=無料) の文字が添えられた QR コードがある。これを WeChat で読み取ることで、店の無料 WiFi に接続されるとともに、その店の公式アカウント (LINE@のようなもの) からお知らせが来るようになり、自然に O2O が実現している。

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もっと強力なのは WeChat Payment (微信支付) とよばれる決済サービスだ。WeChat に銀行口座を予め登録させておくことにより、WeChat で QR コードを読み取ったり生成するだけで、店の決済から個人間の送金、オンラインショッピングや、病院の予約、さらには電気・水道などの公共料金支払から税金の納付まで、すべて行うことができる。

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店頭に設置された専用のハードウェアがワンタイム QR コードを表示してくれるので、それを読み取るだけで支払が完了する。また、コインロッカーや深圳通(Suicaのような交通機関のプリペイドカード) のチャージ機にも QR コードが表示されるので,同様にWeChat アプリで読み取るだけで決済ができる。

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(Photos by ino iku
 
WeChat 以外のプレイヤーも便利を先取りしようと懸命だ。「徒歩よりも楽に、車より気軽に」移動するため、パーソナルモビリティのあらゆるプロダクトが先行して市場に並んでいる。自転車にバッテリーとモーターをつけた「電動車」は、日本でみかけるアシスト付き自転車とは異なり、ペダルを漕がなくても電気の力だけで移動することができる。また、ホバーボードは握り部分のないセグウェイのような乗り物で、足のバランスだけで歩道をスイスイと走行することができる。

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こうした乗り物が法的にどのような規制を受けているか不明だし、無音で背後から迫ってくることから何度となく恐怖感を憶えたが、「快適な移動」という面では明らかにイノベーティブであると評価したい。
ルールの前にプロダクトアウトを急ぐその姿は、いささか雑であると思わざるを得ないが、イノベーションのハードルが日本に比べて格段に低いのは事実である。同じ中国でも上海はここまで極端に進んでいなかった。深圳のエコシステムが社会に強く働きかけている証左と言えよう。

まとめ: 「電化製品の下請け」「モノづくりのエコシステム」そして「暮らしづくりへのあくなき挑戦」 

電化製品やゲーム機の下請けから立ち上がった街、深圳。製造や設計開発の下請けにより力をつけた工場やエンジニアは、その経験をもとに「モノづくりのエコシステム」すなわちメイカーズに代表されるハードウェアスタートアップに対し、高速なプロトタイプから製品化を一貫して引き受けられるサービスへと姿を変えていた。スマートデバイスの企画から製造販売、さらに資本政策に至るまで、そのすべてが深圳に集まっている。
世界から「エッジの立った人材」が集まったことで起きている次のムーブメントが「生活のすべてをテクノロジーで楽にしよう」という試み、すなわち「暮らしづくり」である。スマートシティと呼んでも差し支えない。深圳にある露店のおばちゃんから役所に至るまで、WeChat Payment で決済をし、街中には他の都市では見られないパーソナルモビリティに溢れ、病院はbotによるセルフカウンセリング、予約から医者のレーティングまですべてスマートフォンで完結するようになっている。深圳という一地域に、多様なバックグランドを持つエンジニアや起業家が集結したことで、さまざまなイノベーションが都市を舞台に生まれようとしている。
 
山寨のエコシステムから抜け出せてない「古い深圳」はいずれ淘汰される。とりあえずWiFiBluetoothを積んだだけの「ガジェット」づくりもいずれ限界が来る。深圳が誇るアジャイルな工場、シードアクセラレータ、ソフトウェア企業、投資家、そして人材が次に狙っているテーマは「暮らしづくり」であり、人々の暮らしを変えるプロダクトを生み出す中心地となるであろう。日本はおろか、シリコンバレーですら追いつけない「イノベーションの源泉」がここ深圳にあると確信した。

あとがきに代えて

もともと、深圳のハードウェアスタートアップをとりまくエコシステムを見に行くつもりで参加したツアーであったが、深圳はハードウェアの枠を超えた「スマートシティ」への取り組みに大変刺激を受けることとなった。ツアーの趣旨から外れてしまい、参加した皆様にはご迷惑をおかけしてしまったかもしれない。ここにお詫びさせていただきたい。
今回参加するきっかけとなった、高須さんをはじめとした深圳観察会メンバーによる著書「メイカーズのエコシステム」は、深圳のモノづくりのエコシステムとそれをとりまく教育、行政、産業などを幅広く的確に書かれており、大変参考になった。このエントリーで深圳に興味を持たれた方がいらっしゃれば、是非お読みいただきたい。

また、中国のインターネットについては山谷さんの「中国のインターネット史 ワールドワイドからの独立」が良くまとまっている。こちらも合わせて取り上げる。

ここに書き切れないほどの濃密なツアー (今回いったところをすべて取り上げると、この記事は5倍以上の長さになる) を企画してくださった高須さん、WeChat Payment を体験する機会をつくってくださった堀内さんをはじめ、今回ご一緒させていただいた皆様ならびに見学を受け入れてくださった各所の関係者の皆様、本当にありがとうございました。

 

マイナンバー個人番号カードを街角の証明写真機で申請する

昨年(2015年)末に各世帯に郵送されたであろう、マイナンバーの通知カード。マイナンバーを会社や金融機関に提出するだけであれば、この通知カードだけで十分だが、e-Taxや住民票の発行などのサービスを受けるためには通知カードに替えて「個人番号カード」を申請し入手する必要がある。

総務省|マイナンバー制度と個人番号カード|個人番号カード

個人番号カードの申請には顔写真が必要とのこと。顔写真を自分で用意し、申請書類とともにセンターに郵送すれば発行が受けられるが、自宅に届いたマイナンバーの案内に「証明書写真機で申請ができる」旨が記載されていた。

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証明書写真機でどうやって申請できるのか気になったので、さっそくやってみようと思った。

カードは必要かどうか

マイナンバー制度の意義や問題点などについてはここでは触れないが、以下の機能に魅力を感じる人は申請すればいいと思う。

  • 住民票をコンビニのコピー機で取りたい (自治体によっては今後対応のところもある)
  • 本人確認時に運転免許証以外の書類をつかいたい
  • e-Tax をやりたい

なお、住基カードと被る機能が多いので、既に住基カードでこれらの機能を使えているのであれば急いで個人番号カードを取得する必要はない。

対応している証明写真機

いまのところ、株式会社DNPフォトイメージングジャパン (以下DNP) が展開する証明写真機「Ki-Re-i」のうち、一部の機器が申請に対応している。

株式会社DNPフォトイメージングジャパン|Ki-Re-iお役立ちサイト|マイナンバーカードの顔写真はKi-Re-iで納得の一枚を!

マイナンバーに対応したサイズの写真はどの証明写真機でも撮影できるが、申請システムにつながっている証明写真機は一部に限られる。以下のサイトから対応している証明写真機の設置箇所を検索できる。

株式会社DNPフォトイメージングジャパン|設置場所検索|プリントラッシュ・プリントラッシュフォトブック・証明写真機Ki-Re-i

ビックカメラには大抵あるようである。今回はビックカメラ池袋西口店に向かった。

撮影の流れ

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筐体に「マイナンバーその場で申請完了」と大きな宣伝が掲載されていた。

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ブース内。タッチパネル式の操作盤にマイナンバーのメニューがあるのと、交付申請書を読み取るためのQRコードリーダーが取り付けられているのが印象的。早速マイナンバーのメニューを選択する。

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今回やってみたい「写真機から直接申請手続きをする」以外に、郵送申請用にプリントアウトをする機能、またWeb申請のためにスマートフォンに画像を転送する機能も用意されている。今回は一番左を選択。

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およそ証明写真機とは思わせないほど大量の文章を読ませる。。。

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やっと QR コード読み取りの案内がでた。

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読み取った番号が表示されれば OK

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なんと、エフェクトは追加料金だ!

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ここで撮影。はいチーズ!

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高さや左右のバランスはここで弄れるので、あまり気にする必要はなかった。

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+200円のオプション、これだけだった。。。

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ここで確認を経て、アップロードが開始される。(2分ぐらい待たされた)

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写真がまったくもらえないわけではなく、撮られた写真は「個人番号カード交付申請確認証」という名前の紙で発行された。

まとめ

「写真をハサミで切り取る」「封筒に入れてポストに入れる」みたいな作業がいらず、手軽に申請できて完成度の高さを感じた。ただ、マイナンバーの申請にしか使えない撮影に700円〜900円も自己負担させられるのは厳しい気がする。

将来 e-Tax をする予定のひとは今のうちに申請しておこう。

電力自由化がはじまると安い電気料金プランが選べなくなるという話

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

さて、年明けとともに話題となっている「電力自由化」の話。セット割で安くなる、とかポイントがつくようになるなど、電力会社を変えることでお得なプランが選べるように宣伝されているが、そうでもないケースがあるという話。むしろ電力自由化以降、一部の割安なプランに申し込めなくなるので注意が必要だ。

電力自由化以前

電力自由化以前 (つまり 2016年3月31日まで) では、地域の電力会社(東京電力関西電力など)が用意する以下のメニューから選択することができた。

  • 従量電灯 (地域や容量により "従量電灯A/B/C" の名前がついている。いつ使っても同じ料金。)
  • 夜間割引契約 (夜間の 8 〜 12 時間程度割安な代わりに、それ以外の時間が割高になるプラン)
  • ピークシフト契約 (夜間に加え、夏の昼間も割高になるプラン)
  • 深夜割引契約 (夜間割引よりさらに割安なプラン。電気温水器やオール電化など一定の設備を備えてないと契約できない)

(電力会社ごと割引対象となる時間帯、割引/割増率、基本料金の設計、設備条件などが異なる)

「特に料金プランなんか選んだ記憶がない」という人は、引越と同時に「従量電灯」に契約しているはずだ。(料金プランについて説明を受けた記憶がない人がほとんどだと思う)

筆者は現在東京電力の「半日お得プラン」を選んでいる。

www.tepco.co.jp

筆者の世帯 (東京都, 2人暮らし, 共働き, 平日日中勤務) では従量電灯Bに比べて毎月1,000 〜 2,000 円ぐらい安くなる。参考までに 12 月の請求額は以下の通り。

従量電灯 B 半日お得プラン
基本料金 (60A) 1,684 1,296
9時〜21時: 170kWh 4,244 5,771
21時〜9時: 230kWh 5,743 2,895
合計 11,673 9,962

(税、燃料調整費、再エネ負担金などは含んでいない)

電力自由化でどうなるか

電力自由化以降も夜の利用が割安になるプランが用意されているが、新しいプランでは夜間の値引率が非常に悪くなっている。

従量電灯B 半日お得プラン スタンダードS 夜トク12
基本料金 (60A) 1685 1296 1685 1264
昼間料金 (kWh) 29.93 43.71 30.02 33.76
夜間料金 (kWh) - 12.59 - 22.55

(夜トク12は30分単位の平均使用電力で基本料金が決まるので、基本料金は幾分安くなる可能性がある)

そして、電力自由化がはじまる 2016年4月以降は 半日お得プランなどのメニューの新規申込みができなくなる とアナウンスされている。つまり、割安なプランは今のうちに申し込む必要がある。(自由化前に申し込めば、引越や建て直しをするまで同じプランを継続利用できる)

電気料金プランの見直しについて|東京電力

なお、新料金プランで開始されるポイントの付与は 1000円あたり 5 ポイント。僅か 0.5% しか還元されない。

電力自由化にともなう実例

夜間の利用が多い場合、夜間にシフトできる場合

平日の日中 (9時から21時) の大半が不在となる場合、半日お得プランなどのメニューに今すぐ申し込むべき。直近の電気料金の請求書 (お知らせ) を手元に用意し、現在の電力会社 (東京電力など) に電話することで、料金プランの相談や変更手続きができる。

東京電力の場合、スマートメーターを導入すると30分単位の電力使用量を でんき家計簿 のサイトで確認できるようになる。

スマートメーターへの交換は随時行っているが、まだ通常のメーターが設置されている場合、「電力メーター情報発信サービス」に申し込むとスマートメーターにすぐ交換してくれる。

電力メーター情報発信サービス(Bルートサービス)について|東京電力

スマートメーターに切り替わると、以下のように時間帯ごとの利用状況が確認できるようになる。

https://gyazo.com/00560daa145c7c46a1d2810eac0aeca7

日中はかなり節電できている。もう30分、家事の時間をシフトできるとさらによさそうだ。

オール電化電気自動車、サーバーなどを設置している場合

オール電化電気自動車のように大出力を必要とする機器を設置している場合、サーバーなど1日中負荷の変動がない機器を設置している場合、半日お得プランなどを選択したほうが安いことが多い。

電気給湯器や電気自動車のタイマー充電のように深夜に負荷がかかる機器に対して割安なのはもちろんのこと、24時間負荷が均一な機器に対しても半日お得プランのほうが以下のように割安である。

  • 従量電灯B: 29.93 * 24 = 718.32 円
  • 半日お得プラン: 43.7112+12.5912 = 675.6 円

(1000Wの機器を24時間連続利用した場合)

また、浴室乾燥機やドラム式洗濯機食器洗い乾燥機などタイマー運転ができるものは夜に負荷を移動できるので、こういったものの消費が大きい場合も半日お得プランなどを選択したほうがよいだろう。

それでもよくわからない場合

エネチェンジなどのサイトで試算をしてみよう。

enechange.jp

私の場合、半日お得プランは従量電灯BCに比べ、3年間で10万円以上安いようだ。

https://gyazo.com/5512aab2ac0d9f600b4fa87445a49753 ※ プランが見やすいように、一部のプランを非表示としている

電力自由化後のプランで算出すると以下の様になった。

東京電力|料金プラン試算

筆者のプランでは "年間 -24,353 円おトク" と出てきた。マイナス、つまり新しいプランでは大幅に高くなるということを示している。なかなかに渋い結果である。

https://gyazo.com/13992a2a7cfca63ac0ed521889ffc28b

まとめ

繰り返しになるが 4 月以降に半日お得プランに申し込むことはできなくなる。また、新しい電力事業者でも深夜料金が10円台というプランは用意されていない。今後、犬やクマ、金太郎やキノコなどがどんなに電力のセット割を宣伝してこようとも、今の契約を手放すと元のプランに戻せないことを頭にいれておいてほしい。

新しい電力事業者が提供するセットプランなどで安くなるケースもあるかもしれないが、安い深夜帯の料金が選べなくなるのは、明確なデメリットといえよう。

つまり、独り暮らし世帯や共働き世帯など日中は家をあけることが多い世帯は、今のうち (3/31まで) に割安なメニューへの切り替えを検討するとよいだろう。

株式会社ビットセラーの取締役を退任した

2015年10月31日をもって、私 shao1555 こと澤田はビットセラーの取締役を退任した。またビットセラーはnanapi, スケールアウトと合併し、11月1日より Supership 株式会社として新たなスタートを切った。Supershipでは役員ではないが、メンバーの一員として引き続き関わっていく。

株式会社スケールアウト、株式会社nanapiおよび株式会社ビットセラーの3社合併に関するお知らせ

創業から今日に至るまで

身の上話をする前に、私とビットセラーのこれまでをまとめておく。

ビットセラーは2011年に代表取締役(当時)の川村亮介氏とともに設立したスマートフォンサービスの会社。創業から吸収合併まで、「ビットセラーのはじまりからおわりまで」取締役として職務にあたってきた。

前職は株式会社アトランティスで広告配信システムのAdLantisの開発をサービス初期から担当し、2011年にはグリーに買収された。2011年はスマートフォンが本格的に立ち上がった年であったとともに、東日本大震災が発生し、津波で街ごと流されるという痛ましい出来事が深く心に刻まれる年となった。

スマートフォンでより多くの写真が撮られ、それが人々のかけがえのない思い出となる将来を見越し、「スマートフォンNo.1のカメラ」と「大切な写真をいつまでも管理・保管できるサービス」の2つを手がけるべく創業したのがビットセラーである。

Android のカメラアプリ FxCamera を開発した山下盛史氏がCTOとして参加し、FxCamera を事業展開するとともに、写真の保管サービスの開発にもあたったが、FxCamera は Instagramの勢いにおされて開発を終了し、また写真の保管サービスは採算の確保が困難であるなどの理由からリリースを断念した。

その後、KDDIに買収され Syn.構想 の一端を技術面で担うとともに、ランキングサービス Qrank (提供終了済) を新たに開発し、新たなサービスの可能性を探っていた。

このたび、Syn.構想をはじめ、KDDIの傘下が手がけるインターネット事業を盤石なものとすべく、nanapi、スケールアウト、ビットセラーの3社と合併しSupershipとして一歩を踏み出すこととなり、そのタイミングで私は取締役を退任することとなった。

うまくいかなかったけど死ななかった

創業から今日にいたるまで、当初描いていたゴールを達成することはできなかった。ありていにいえば「うまくいかなかった」ということになる。ビットセラーに期待を寄せてチームにジョインしてくれた社員・アルバイト・インターンの皆様、プロダクトを愛してくださったユーザーの皆様、経営陣の想いをチャンスに変えてくれた投資家の皆様をはじめ、ビットセラーを応援してくれたすべての方に感謝の意を表するとともに、期待に添えなかったことを率直に謝るほかない。

他方、吸収合併されるその日まで会社が存続できた、すなわち会社が潰れなかったことは非常に貴重な経験となった。ビットセラーがどんな苦境に陥ろうとも、我々のチーム、ユーザー、投資家をはじめ、多くの方がビットセラーのことを見捨てず、打開策を粘り強く考え、応援しつづけてくれた。そうした支えをもとに会社を守り切った経験は、次の窮地を自ら切り開くための鍵となるはずだ。

取締役として何ができたのか

チームのとりまとめやアウトプットの整理、適時の正しい決断など、取締役が果たすべき役割の多くで力不足であった。ただ、チームひとりひとりの視野を広げることには貢献できたのではないかと思っている。ビットセラーのチームメンバーはみな、各自の専門分野だけでなく、インターネットビジネス、エンジニアリング、デザイン、組織論、はては社会情勢や国際金融に至るまで、業務への直接的な関係の大小を問わず、実に幅広い分野に興味と関心を持ち、日々の行動や決断に生かしている。前節で触れた「会社が潰れなかった」理由のひとつでもあろう。この文化がチームひとりひとりの人生の充実に少しでも寄与できるのであれば、これほど嬉しいことはない。

次はなにをしたいか

スマートフォンが一通り行き渡り、ユーザーの可処分時間を十二分に食い尽くすに足りるコンテンツが揃った今日は、インターネット界隈のひとつの節目であると思っている。可処分時間を奪い合うビジネスは踊り場に来ているので、その外側、すなわち社会や産業、趣味や生活のステージで勝負したい。ただ、これまで手がけてきたインターネットビジネスの延長線上にこれらあるかというと、少し毛色が違う。勝負の仕方も大きく変わるはずだ。自分が向き合いたいテーマをこれから1年ぐらいかけて探していきたい。

次の仕事の仕方に「起業したい」「経営者になりたい」というこだわりがあるわけではなく、自分の役割が勝負する上で腑に落ちればそれでよい。なので、「Supershipをいずれ辞めて起業します」という判断は今はない。むしろ幸運なことに、SupershipはKDDIの子会社であり、携帯電話や情報通信での大きなシェアを足がかりに社会や産業、趣味や生活のステージへ踏み込めるポテンシャルを秘めている。

エキサイティングで勝負に適した環境を追い求める。それが自分の次のステージを選ぶときの判断軸だ。

今後に向けて

Supershipでは経営者でなくなり、裁量労働制が適用されるようになる。自分のパフォーマンスを高められるように仕事の時間をコントロールする責任を伴う。

前述の通り、自分の強みは視野の広さだと思っている。これを維持するためには、多くの人と会い、世界中を訪問し、見聞を広げ続けていく必要がある。そこにかける時間を確保するためにも、普段の仕事には最高の効率が必要になる。工夫の積み重ねで無駄を徹底的に省きつつ品質を維持し、次の目標を達成するために必要な時間をひねり出す。また身体的パフォーマンスも最大化するために運動時間を確保し健康的な生活を送る。こうした筋肉質な時間の使い方を会得するのが第一の目標だ。

アウトプットの不得手もこの1年で克服したい。しばらく放置してしまったサークル活動を再開し、稚拙ながらも技術書を次の冬コミに出すところから始めようと思う。

コミックマーケット89参加情報 - XD

この機会に面白い話はどんどん聞きにいきたい。あるいは自分の経験が何かの問題解決になるのであれば話にいきたい。さみしがり屋なのでメシのお誘いなど、お気軽に連絡をお待ちしております。

むすびに

創業から今日までの4年間、自由にやらせてもらうことができた。これもひとえに多くの方が支えてくれたことに他ならない。社員、役員、投資家、アルバイト、インターンをはじめ、ビットセラーを支えてくれた皆様、ビットセラーのプロダクトを愛用してくださった世界中の皆様、公私を問わず交流し励ましてくれた友人の皆様、会社を投げ出しそうになってもそっと後押ししてくれた最愛の妻、そのすべてに感謝の意をここに表するとともに、至らなかった点をお詫びさせていただきたい。

これからもよろしくお願いします。

携帯電話の「定期的に機種変更するユーザを優遇」する施策は悪ではない

安倍首相の鶴の一声でにわかに騒がしくなってきた「携帯電話の料金引き下げ」の話題。

記事によると「定期的に機種変更・MNPするユーザと、同じキャリア・端末で使い続けるユーザの間の不公平感の解消」「MVNOの利活用」などで月額の負担額をおさえようという論調で議論が進んでいるようだ。

なお、私は大手通信キャリアと資本関係がある会社に籍を置くものであるが、この記事は所属する団体を代表する意見ではなく、あくまで一個人として考えている内容であることを予めお断りする。

TL;DR

私の言いたいことをさきにまとめておくと以下の通りになる。

  • スマートフォンのように進化が著しく、高度な保守が必要となる通信機器は、一定の買い換えを促した方が全体的なメリットが大きい
  • 利用者の負担額の軽減には安価な機種の導入を進めるべき
  • 機器の更新や保守をまとめて引き受ける代わりに高額な通信キャリアと、それらのサービスが不要な代わりに低額な通信キャリアという線引きを明確にすべき

以下、これらの内容について説明していく。

スマートフォンのスペックは底上げする必要がある

スマートフォンは車やテレビなどと異なり、短期間でスペックがグンと上がる。

f:id:shao1555:20151020114501p:plain iPhone 6s - Technology - Apple

iPhone 6s は1年で7割も性能が上がる。4年前の端末と比較すると5倍、 6年前と比較すると15倍にも相当する。また、通信速度は (日本での) 初代 iPhone が 3.6Mbps だったのに対し、今は 300Mbps と 83倍にもなっている。

その高いスペックは、ハイエンドなゲームのためだけに存在するわけではない。

限られた電波帯域をうまく使うために効率の良い通信方法を利用したり、また効率がよい圧縮方式を用いて動画や写真の転送量 (=パケット料) を節約したりするためには、高いスペックの端末が必要となる。

また、悪意をもった人は脆弱なマシンを狙う。古いソフトウェアや暗号化方式を用いた端末は残念ながら、恰好の餌食となってしまう。利用者により適切にアップデートやパッチの適用ができればいいが、あらゆるソフトウェアやサービスとの互換性を考えながら適切にアップデートを施せるユーザはどれだけいるのだろうか。

インターネットや無線区間をみんなで共有している以上、旧世代の端末やソフトウェアが多く利用されることは、全体的な効率を下げることにつながる。高速道路に原付や1960年代の小型車が多く流入したら渋滞が頻発することは容易に想像できるだろう。

Vietnam by M M, on Flickr

ユーザによる端末の買い換えを促す仕組みはやはり重要だ。

機種変更の負担を下げるには

機種変更を促すためには、費用と手間の2つの問題をクリアしなくてはいけない。

日本の大手通信キャリアでは高額な端末を、利用者の通信料金を原資に割り引きするという制度を主にとりつつけてきた。短期解約で損をしないよう端末の本体価格を思いっきり引き上げ、長期利用時にはその負担が軽減されるような仕組みでユーザを拘束している。

smhn.info

これに対し、MVNOでは中国製の安価な端末を中心に揃えている。これらは「型落ち」ではなく、「部材のコストなどを下げた格安機」であり、最新の OS が動き、効率の良い通信方式が使えるようになっている。(例外もあるが)

f:id:shao1555:20151020125747p:plain 機種一覧|FREETEL(フリーテル)

大手通信キャリアは型落ち機を特売の目玉にするのではなく、このような「格安機」を取扱うことでユーザの負担を抑えるべきだと思う。

もうひとつが手間の問題。機種変更のために混雑した携帯電話屋に向かい、契約から移行作業まで一通り終わると1日潰れる。この負担だ。

これに関して、体力のある大手キャリアはレンタル制度を導入すべきではないだろうか。Android 6.0 から設定情報をクラウドにバックアップできるようになるなど、データの移行を簡便にする技術的要素は整いはじめてきた。端末が2年ごとに自宅に届き、あたらしい端末の電源をつけるだけですぐに使えるようにするなど、機種変更の方法を圧倒的に簡単にする必要がある。(Kindleはアカウント設定済みの状態で届いて直ちに読書ができる。こうなってほしい)

大手キャリアは高額、MVNOは格安?

大手キャリアはハイエンド機種をショップで販売し、高額な基本料金で快適な通信ができる。一方のMVNOは格安機種をインターネットで販売し、安い代わりに混雑時はパフォーマンスが低下する。これが現状の大手キャリアとMVNOの選択だ。しかし「ユーザサポート」を念頭におくと、以下の様な選択肢を用意すべきではないのだろうか。

  1. サポートは自己責任の代わりに、機種や通信品質、オプションサービスを自由に組み合わせられる (玄人向け)
  2. 現行の大手キャリア並のサポートで、買う機種によって基本料金が変動する (大衆向け)
  3. 端末のレンタル制、クラウドによる一括管理などでユーザの手間を極限まで下げる代わりに、サポート費用をそれなりにとる (デジタルデバイド対策)

iPhoneを毎年買い換えるようなヘビーユーザー、あるいは難解な料金プランをパズルのように組み合わせて維持計画をきちんとひけるような人には今のMVNOのようなスタイルの延長が適正だと思う。

そこまではいかないがスマホのことはある程度わかり、定期的に機種変更ができるような人に対しては機種に応じた料金をユーザに負担させる。安い機種を選択すると月に数千円下がるぐらいが理想ではなかろうか。

もっとも消極的なユーザ層に対しては端末を定期的に発送する、アプリのインストールをキャリアが管理するなど、サポートを手厚くする代わりに一定の対価をとる (或いは他のスペックを下げて釣り合わせる) 必要があるだろう。

まとめ

通信環境の底上げは国のICT戦略上も重要なもので、「古い機種を使い続ければ得」な制度を設計すると、ITの成長は鈍化してしまうと思う。技術の新陳代謝を維持するとともに、ユーザが必要とするサポートレベルが多様化しているという点をふまえ、丁寧な提言をまとめてほしいと切に願っている。